一方で令和の恋敵は、無駄な意地悪はしない。
「『silent』と『初恋』で恋敵を演じた夏帆さんの役はどちらも人物の背景がしっかり描かれているので見ている側が同情してしまうような恋敵でした。ただの当て馬として描かれないのが令和の特徴のような気がします」(テレビ誌編集者)
令和ドラマは“無理に恋愛しない”
主役を引き立てるために存在する脇役の描かれ方をしていた'90年代と、すべての登場人物の背景を丁寧に描く令和。多様性がうたわれる現代では必須なのかもしれない。
'90年代の恋愛ドラマは「群像劇が多いのも特徴」だと神無月さん。
「'91年のフジの月9ドラマ『東京ラブストーリー』は男女5人の複雑に絡み合う恋愛模様を描いた名作ですが、身も蓋もありませんが、仲間内で付き合ったり離れたりの繰り返しだったな、と。それゆえ奔放ではあれど、カンチに一途なリカへの応援が、一大ブームとなって爆発したんだと思います。
そして同じ柴門ふみさん原作で'93年の月9ドラマ『あすなろ白書』では主演の石田ひかりさんに筒井道隆さん、恋のライバル役としてまだブレイク前の木村拓哉さん、ヒロインの友人には鈴木杏樹さん、その思い人として西島秀俊さんがメインキャストとして登場します。ここまでで5人。さらに筒井道隆さんの元恋人なども参戦して複雑な恋愛模様に」
神無月さんは仲間内で恋愛することにアメリカのドラマの影響をあげる。
「これは当時アメリカで大ヒットを記録したドラマ『ビバリーヒルズ高校白書』、続編の『ビバリーヒルズ青春白書』の影響も大きいかもしれません。とにかく大人数、仲間内で恋愛しまくるし絶えず相手が入れ替わっていく、大変面白いドラマでした」
一方、令和では、
「『silent』ではキャスト全員が恋をしているわけではないのも興味深いですね。紬と別れた湊斗は、無理やり新しい恋を始めたりしないし、紬の親友の真子は良き相談相手ではあるけど、彼女の恋愛自体は描かれません。'22年後期のNHK朝ドラ『舞いあがれ!』では、航空学校でヒロインの舞が、同期生の柏木と恋人同士になるも、舞に片思いする吉田学生が、告白する気配はまだありません。
ヒロインの幼なじみである貴司は、まずは自分の生きがいを探し求めることを優先し、舞に恋をするような描写も今のところありません。恋人のいない人同士をくっつけたりしないし、キャラクターが追いかけたい夢があれば、恋愛よりも夢を優先するのが今っぽいなと思います」(神無月さん)
『silent』の脚本家の生方美久氏はトーク番組『ボクらの時代』(フジテレビ系)で「よくドラマで使われる『当て馬』というのが嫌いで、そうはしたくなかった、当て馬とされる人間にもちゃんと人生があるし、それを大事に描きたかった」と話していた。これからの恋愛ドラマは、登場人物たちの人生を丁寧に描くことが求められている。