憲法違反してまで増強するのに、軍事的には「周回遅れ」
「安保法制の際、安倍政権は歴代政府の憲法解釈を独断で変えて、集団的自衛権の行使を閣議決定で容認しました。それと同じ問題が安保3文書でも繰り返されています。
外国を攻撃できる武器は憲法で禁じられた“戦力”です。それを持ちたければ、憲法改正の手続きを行い、主権者である国民の判断を仰ぐため国民投票を実施すべき。時の政権が独断で国のあり方を変えることは、憲法が定める国民主権からも許されません」
一方、敵基地攻撃能力を軍事的に見て「周回遅れ」と指摘するのは、軍事ジャーナリストの前田哲男さんだ。
「日本には“相手国が攻撃に着手した”と判断する手段がありません。中国や北朝鮮との間にホットラインを敷いていないため、アメリカの情報に頼らざるをえない。
加えて、日本が'25年の配備に向けて開発を進めているのは巡航ミサイルです。100キロ以上を飛ぶには、1時間はかかります。一方、日本に飛んでくるのは北朝鮮も含めて弾道ミサイル、つまりロケットなんです。最長10分で日本列島のどこにでも命中させる能力を持っています。これでは抑止力になりません」(前田さん、以下同)
「中国脅威論」はどこまで真実か?
そもそもなぜ今、軍備増強に走る必要があるのだろうか。岸田政権は「厳しく複雑な安全保障環境」を理由に挙げるが、説明不足は否めない。
「ウクライナ戦争がきっかけになったことは間違いない。以来、ロシアがウクライナに侵攻したように、中国が台湾海峡に攻め込むのではないかという“台湾海峡危機”が喧伝され、自民党内で大々的に言われるようになりました」
現に、ウクライナ戦争の勃発直後の昨年2月、安倍晋三元首相は「台湾海峡危機は日米同盟の危機であり、日本有事である」と強調していた。
「こうした考えは安保3文書にも色濃く表れています。中国脅威論という立場に立ち、中国に対抗するために防衛費を増やし、抑止力を高めるという発想です」