野球に打ち込み教師を目指した学生時代
“コニタン”は幼いころのニックネーム。出身は和歌山県田辺市。'59年9月、伊勢湾台風が上陸した2日後に小西さんは生まれた。身体が大きく、県から健康優良児の表彰も受けた。でも、気は弱くて、泣き虫。
弱い自分が強くなれたのは、小学4年生の10月。妹が生まれた。その日は遠足。お弁当の時間に「僕、お兄ちゃんになったんやで!」と舞い上がっていると、クラスでいちばん強い友人に小突かれ、手から弁当が地面に落ちた。
「なにするんや!」
思わず肩を押すと、友人の身体は軽々と吹っ飛んだ。その光景を同級生全員が目撃。
「コニタンのほうが強いで!」
力関係は大逆転。クラスでいちばん強いコニタンは学級委員長になり、少年野球チームでもキャプテンに選ばれた。そんな経験は決して特別なことではないと小西さんは言う。
「子どもって何かのきっかけで大きく変わるんですよ。だから親御さんには『ウチの子はダメだ』とは絶対に思わず、『今のあなたが大好き』と言い続けてほしいんです」
中学校に入ると運命の出会いが待っていた。担任は23歳の新任教師。入学して一週間後の最初のホームルームは、このひと言で始まった。
「男ども!一週間いろんなことがあったやろ!」
男子生徒は前に出て整列。タバコ臭いヤンキーもいる。悪い生徒はしばき倒されるんや……。ビクビクしていると先生はいきなり、いちばんワルの生徒を抱きしめ言った。
「外でタバコ吸うたらカッコ悪いぞ。なんぼ男前でもオンナにモテへんぞ」
ポカンとしていると、今度は学級委員長の小西さんが抱きしめられた。
「一週間、よう頑張ったな」
野球部の朝練で誰よりも早く登校していた小西さんは、少しでも学級委員長らしいことをしようと、毎日クラス全員の机を拭いていた。
「それを見ててくれたんやと知って、もう感動ですよ。悪い生徒も一生懸命な生徒も分け隔てなく、ひとりひとりのいいところを見つけて全力で褒めてくれる。僕も大人になったらこんな先生になりたい、そう思った瞬間でした」
高校は野球の強豪校、県立田辺商業(現・神島高等学校)に進学。甲子園出場の夢は果たせなかったものの、ここでも素晴らしい先生たちとの出会いがあった。
「英語の先生をされていた野球部の監督から、『甲子園は目標やない、枕投げを目標にせぇ』と言われたんですよ。意味わからんでしょ?そしたら、『甲子園で試合をする前日、泊まった旅館でおとなしく寝るか?ワクワクして眠れんやろ、うれしくて枕投げするやろ、それを目標にせんかい!』と。人は楽しいことを目標にしたほうが頑張れるんだと、監督は僕らに教えてくれたんです」
数学の先生は試験前の大事な授業で、いきなり問うた。
「ミーちゃんとケイちゃん、どっちが好きや?」
40分間、ピンク・レディーの話題でクラス全員が大盛り上がり。しかし授業の残り5分、先生は黒板に公式を書くと、「これは覚えておけ」と言って教室を出て行った。
「その授業、今でも覚えているんですよ。で、大学で児童心理学の本を読んでいたら、肝心なことを教えるときこそ遊びや回り道も必要だと書いてあった。そうか!あの授業やったんか、と」
小西さんは教師になるために大学へ進んだ。選んだのは野球の名門・中京大学。だが、野球部では有無を言わさぬ熱血指導にうんざり。早々に退部すると演劇部に移った。
「教師になったら生徒からおもしろいと思われる授業をせないかんでしょ?演劇部でパフォーマンスを身につけたかったんです」
演劇部員には芸能事務所からエキストラの声がかかる。身体の大きな小西さんは、『仮面ライダー』ショーの怪人、NHK『中学生日記』では警察官役、萬屋錦之介一座の『赤穂城断絶(あかこうじょうだんぜつ)』では斬られ役で御園座(みそのざ)の舞台にも上がった。
芝居への興味は膨らむ。一方で成績は落ちていく。このままでは教師になれへんぞ。3年生になればゼミも始まる。役者の仕事は忘れて学業に専念。選択する教職課程は商業科と社会科。必死に勉強し、簿記1級も取得した。
大学3年の冬、「メシでも食おう」と久しぶりに役者仲間から誘われる。そこに、なぜか『中学生日記』でお世話になったディレクターが同席。
「もう芝居はやらんの?」
「やりません、4月には教育実習も始まるので」
そんな会話をして別れた数日後。ディレクターから電話がかかってくる。
「教育実習生の案が通ったで。コニタン、実習生役な!」
ネタを提供しただけのつもりが、役者として起用。「もう決まったから」と説得され、「これっきり」という約束で小西さんは『中学生日記』の教育実習生役を演じた。
「そのドラマの台本を参考にして教育実習をやったら、生徒に大ウケでした。これならほんまの教師になっても大丈夫やと自信がついたんですけど、7月に和歌山県教育委員会から手紙が来て……」
来春の新入生は'66(昭和41)年の丙午(ひのえうま)生まれ。生徒数が減るという理由で教員採用はナシ。夢に向かう小西さんの歩みは、そこで止まった──。