信長を演じることに勇気が必要だった
木村にとって初挑戦の時代劇は25歳で演じた主演ドラマ『織田信長 天下を取ったバカ』('98年)。本人にとって特別な“織田信長”をふたたび演じることに“勇気が必要だった”と話していたと聞いたが、
「監督は『るろうに剣心』シリーズの大友啓史さん。脚本が放送中のNHK大河ドラマ『どうする家康』や『リーガルハイ』シリーズなどの古沢良太さん。そして、共演が綾瀬はるかさん。決してネガティブな意味はなかったと思うのですが、ご自身が発言されたことが大きな波となって目の前に迫ってきたと感じられての言葉だったと思います」
くしくも本能寺で自害したといわれる年齢と同じ49歳でふたたび信長を演じることになった。劇中、信長と濃姫は「殿」「姫」と固有名詞を避けて表現される。
「これは、脚本の古沢さんの発明でした。もともと、古沢さんは時代劇のラブコメに挑戦してみたいとおっしゃっていて。“最悪の政略結婚” “最悪のBoy Meets Girl”を描きたいと。
そして、ふたりを“殿” “姫”と表現することで、織田信長と濃姫の史実を知らなくても、ひとつのラブストーリーとして楽しむことができる。時代劇に対して苦手意識のある方のハードルを低くしてくれる、素晴らしい発明だと思いました」
映画の冒頭、16歳の信長は家臣とともに青年らしいノリの言動でクスッと笑わせてくれる。これまでの時代劇にはあまりない描写に、一気に世界に引き込まれていく。そして、初夜を迎えた信長と濃姫のシーンでは、『るろうに剣心』で邦画アクションを一新した大友監督の手腕を堪能することができる。
「大友監督のエネルギーには圧倒されました。つねに作品を高みにあげることを考えている。撮影中も画面の隅々まで見て、“ここ大丈夫、ここ大丈夫、ここ大丈夫”と細かく確認されて。どれだけの目があるのだろうと不思議になるくらいでした。
そして、すべてが整っていないとオーケーにならない。監督のその状況づくり(絵づくり)にスタッフ、俳優全員が全力で取り組んでいく。ぶつかり合っている感じでしたね。だからこそ、日々、すさまじい画(え)が撮れる現場でした」
撮影中、監督と演者のディスカッションはあまりなかったと聞いたが、
「撮影に入る前、木村さんから“織田信長という実在の人物であり、偉人に失礼のないように演じたい”と伝えられたときに監督はすごく感銘を受けていましたね。また、濃姫は歴史上の記録が少ない人物なので、古沢さんの作り上げた人物像を道しるべに、綾瀬さんと監督は何度かお話しされていたように思いました」