母の支えがあって現在の武藤敬司に
「武藤敬司とムタから学んだことですから、私も武藤愛莉と霧愛を使い分けて活動していきます」
からっと笑う姿が、天性のムードメーカーでもある父を彷彿とさせる。
「人工関節の手術をしたときもそうですが、父は、人工関節にしたらどんなプロレスができるかなって楽しそうに想像していたんです(笑)。ポジティブというよりも、自分のやってきたことに誇りを持っているからこその考え方だと思います。父はそういうマインドなんですよね。ただ……」
少し間を空けて、「昔から自己肯定感が強かったわけではなかったと、お父さんは振り返りますね」と霧愛さんは続ける。
「素晴らしいアーティストさんの裏には素晴らしいスタッフさんがいる──ではないですが、素晴らしいレスラーには素晴らしい裏方さんがいて、それがお母さんなんですね。お父さんは、私と兄には見せない顔をお母さんには見せる。お母さんにだけは弱音を吐いている。2人だけの絆があるんだと思います」
ファンは、武藤敬司を「天才」「プロレスリングマスター」と呼ぶ。だが、妻・久恵さんの内助の功があったからこそ、輝き続けることができた。
「お父さんは、試合前の準備をすべてお母さんに委ねているくらい。精神面も含めてお母さんが整えてあげているんですよね。お母さんが、『あなたは大丈夫、大丈夫よ』って気持ちを上げ続けていたら、ああなった! 『オレをもっとリスペクトしろよ~』みたいな自己肯定感の高い武藤敬司になったのは、お母さんがおだてすぎた結果です(笑)」
そんなふうに言い合える家族がいたからこそ、満身創痍の身体でありながら、60歳まで武藤敬司はトップレスラーとして君臨し続けたのだろう。
「武藤敬司は裏切らない。それは私たち家族に対してもそうなんです。ずっと変わらない。だから、いつか私が結婚するってなったときは、やっぱりお父さんみたいな人と結婚したい。でも……きっと父は、『当たり前だろ~。どんだけ育ててきていると思ってんだよぉ』とか言うに決まっている(笑)」
“家族愛”なくして“プロレスLOVE”はなかった──。素晴らしいレスラーには、素晴らしい家族がいる。霧愛さんの話を聞いていると納得である。
「父・武藤敬司はそのまんまカッコいいままで、いつか私が成長したときに共演したいです。形は違うけど、娘として武藤イズムを継承していけたら。霧愛っていう人のお父さんもすごかったんだよ。そう言われるように頑張りたいし、お父さんを喜ばせたい」
プロレスラー・武藤敬司は引退する。だが、その家族の形には、まだまだ続きがありそうだ。
(取材・文/我妻弘崇)