バンカーの圧倒的な理解力
「ウチの馬だと、1日40〜50カットは普通に撮ります。ほぼ1発OKなので。演技やアクションで現場が押していても“馬で巻く”。ウチの馬でオンタイムに戻しているんですよ(笑)」
通常、動物を用いた撮影はとても時間がかかるといわれるが、
「だから、スタッフさんたちも“もう終わったんですか!?”と驚く。たった1カットで5時間くらいかかるなんて聞きますから(笑)」
どうして馬たちはそんなに優秀なのか?
「馬は草食動物ですから、習性としてすぐ逃げます。そもそもウチの乗馬クラブは、父親が“西部劇ごっこ”をするためにつくったもので(笑)。その実現のため手探りを続ける中で、馬もちゃんと理解させて教えていけば怖がらないということがわかって。“乗った人が鎗を振り回しても自分は痛くはない”“爆発音がしても、別に怖くはない”と、とにかく根気よく、ひとつひとつを教えていくだけ。徹底して信頼関係をつくっているだけなんです」
よく“調教の様子を撮影したい”という依頼を受けるそうだが、
「今日やって、明日よくなるものじゃないんです。今日から張りついて撮り続けて、1年後に変化がわかるくらい。それに、10頭の馬がいても、10頭すべてが役馬になれるわけではありません。すごく早く理解する馬もいれば、何年もかかる馬もいる。理解はしても撮影は絶対に嫌がる馬もいます。そして技術者が乗る分には言うことを聞いても、役馬に乗るのは役者さんですから。役者さんたちは撮影前にはウチに練習に来ますが、大河の主役クラスでも40〜50時間くらい。少ない人だと乗馬経験10回未満。そういう方を乗せたうえで、いろんなことをするわけですから。役馬になれるのは3割くらいですよ」
そんな役馬たちの中で現在、トップに君臨しているのがバンカーなのだという。
「バンカーには圧倒的な理解力があります。撮影では、新たにやることをその場で教えていくんですね。“この速度で走る”“ここに来たら止まる”など。2回もやれば全部覚えちゃうんです。いうなら、バンカーが勝手に走って止まってくれるわけですから、役者さんは馬の操作に必死になる必要がなく、演技に集中できるんです」