テレビとネットの大きな違いは、テレビは場を用意してもらわないといけないが、ネットは自分で場を用意できるということである。最初にテレビに場を用意してもらう=キャスティングしてもらうということが、一般人には容易ではないのは想像に難くないはずだ。芸人でもテレビに出られるようになるまで下積み十数年以上を要するという人は珍しくない。
だが、局アナになるということは、ついこないだまで大学生だったほぼ普通の若者にそれを可能とさせる。最近では、半年程度の研修すら経ずに“入社初日にデビュー”も珍しくないほどだ。
つまり、最初にして最大の難関である「テレビにキャスティングされる=爆発的に知名度を高める」ということを、局アナになればかなえてもらえるのである。その分、局アナになるための試験は、ときに下手なアイドルよりも倍率の高いものとなっている。
ただ、ひとたびその関門さえ突破してしまえば、一般会社員という安定した身分でありながら、若くして一気に知名度を高めることができる“魔法の仕事”と言ってもいいだろう。
もちろん、これまでも、有名になることを目的としてテレビ局のアナウンサーになる学生は多く存在した。かつては有名にする手段もテレビであれば、同時にその知名度を使用する場所もテレビだったので、視聴者としてはそう違和感はなかった。昨日まで局アナだった人間が、次の日フリーアナとして同じ番組に出ていても、見た目には違いはない。
だが、現在起こり始めていていることは、有名にしてもらう場所はテレビでありながら、その知名度を発揮する場所はネットやSNSである――という、有名になる場所と知名度を生かす場所がズレてくる、という事象である。
しかもその知名度を活かしたことによる利益は、テレビ局ではなく基本、本人や関連するネット企業やスポンサー企業に入る――ということになる。
森香澄の退社発表後は、彼女のTikTokに批判的なコメントも散見されるようになってしまったが、根本にはそのズレに対する違和感が存在するのではないだろうか。
地方局アナと一般企業、どちらの内定を選ぶか
動画プロデューサーという肩書きではあるが、ネット動画配信企業に転職し、その企業の制作する番組にMCとして出演したり、ユニクロのCMにも登場している国山ハセンの活躍は、この流れをいち早く先取ったものと言っていいだろう。
学費がかからず医者になることができる防衛医大生は、卒業後に自衛官医師として2年間は勤務しなければならず、それを破ると数千万円レベルのお金を払わなければならないという縛りがあるが、アナウンサーにはそれがない。
かつてはフリーになったキー局アナウンサーは、退社後1年間は他局では使われないといった暗黙のルールのようなものも存在すると囁かれていたが、ネット上の活動やCM出演であればそんなことはお構いなしなのは彼らが証明してくれている。