応援団は「かっ飛ばせタツジ(ヌートバーのミドルネーム、祖父・榎田達治にちなむ)」と声援を送った。しかし現地の観客席では、3月9日の中国との初戦の中ごろから「ヌー!」という掛け声がかかるようになった。MLBではダルビッシュ有の登板時に「ユー!」という掛け声がかかるが、これは「ユーイング」と呼ばれ、エースへの期待感を込めた独特の掛け声だ。ヌートバーもすでにアメリカで「ヌーイング」が起きていたようだが、東京ドームでも2戦目以降、ヌートバーが登場すると、嵐のような「ヌー!」がドームに響くことになった。おそらくはアメリカの数倍の迫力になっていたはずだ。

 ヌートバーがコンビニに買い物に行くと、ファンが待ち受けていたと言う報道もあった。また早くも「ヌートバーロス」に言及した記事も出た。こんな短期間で「国民的アイドル」のような人気を博した人は、これまでなかったのではないか。

 ダルビッシュ有大谷翔平、ヌートバーの前に、NPB最年少の三冠王のヤクルト村上宗隆、2年連続沢村賞のオリックス山本由伸、令和初のパーフェクト男ロッテの佐々木朗希の影はやや薄くなった感があるが、こういう形で「七人」ならぬ「三十人の侍」が勢ぞろいした。野球ファン、そして日本国民は「一騎当千の顔ぶれが世界から集まり、一つのチームになっていく」ストーリーを存分に楽しみ、WBCへの期待感を高めたのだ。

WBCグッズを求めて「数時間待ち」

東京ドームでWBCグッズを購入するために並ぶ人たち(写真:筆者撮影/東洋経済オンライン)
東京ドームでWBCグッズを購入するために並ぶ人たち(写真:筆者撮影/東洋経済オンライン)
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 実はそうした「本筋」のストーリーとは別に、もう一つの動きもあった。それは「WBCグッズ」の人気だ。ユニフォーム、キャップなどは壮行試合、強化試合の段階で爆発的に売れていた。

 主催者は球場内で販売しては混乱が起こると、球場外に販売ブースを設けたが、この前に大行列ができた。この中には入場券を持っておらず、グッズを買うためだけに並ぶ人もたくさんいた。東京ドームのショップ周辺には「数時間待ち」の表示と共に朝から大行列ができ、試合が始まっても途切れなかった。

 ユニフォームなどは1人で購入できる点数が限定された。しかし京セラドームの周辺では「転売ヤー」と思しきグループが、ユニフォームを袋から開けて種類ごとに分別する姿も見られた。転売サイトではこれらは高額で販売されるのだ。こうした「副反応」もWBC狂騒曲の一つの側面だ。