サービスの増加で書店開業の障壁は低くなっている

『BOOKSHOPTRAVELLER』入り口の階段。個性派書店と呼ばれるだけあり、雰囲気のある佇まいで、いざ本の世界へ
『BOOKSHOPTRAVELLER』入り口の階段。個性派書店と呼ばれるだけあり、雰囲気のある佇まいで、いざ本の世界へ
【イラスト】『一冊!取引所』のシステム

 和氣さんの『BOOKSHOP TRAVELLER』も、「棚貸し」という珍しい形態の書店。作家やクリエイター、個人の無店舗本屋や出版社などに棚の一区画を貸し出し、店内では各出店者がセレクトした書籍を自由に手に取ることができる。いわば、棚単位で小さな本屋が集まった複合書店だ。

棚貸しというビジネスモデルは、店舗の棚を月額でレンタルすることで固定収入を得られるという仕組みで、2017年に開店した『みつばち古書部』(大阪市阿倍野区)がこのスタイルの源流になると思います。私の店ではシェアしている棚以外のスペースでは、自分でセレクトして仕入れた新刊を売っているので、小売業としての面ももちろんありますが、たくさんの方と棚を通して緩くつながっていくコミュニティー運営の側面が強い、業態でもありますね

 本のセレクトやディスプレーの方法など、棚をどう使うかは出店者の自由。店内を歩いてみると、それぞれの店主の思いがつまった棚が並んでいて、一度にたくさんの書店を訪れたような感覚になる。

店のコンセプトは“本屋のアンテナショップ”で、店名もいろんな本屋を旅するように楽しんでほしいという思いを込めて名づけました。月額の棚貸しだと、目先の売り上げばかりにとらわれずに“本屋を紹介する本屋”を実現できますし、棚主さんとのコミュニケーションも楽しいです」

 小さな書店の開業が増えた背景には、仕入れルートの多様化という変化もある。そもそも新規書店が大手取次に口座を開く場合、「信任金」という初期費用がかかる場合がほとんどで、それが個人書店の開業の足かせとなることも多かった。

 しかし近年は、楽天ブックスネットワーク株式会社が提供する書籍少額取引サービス『Foyer(ホワイエ)』や、書店と出版社の現場をつなぐ取引プラットフォーム『一冊!取引所』といったサービスも誕生し、書店開業の障壁はさらに低くなっている。『一冊!取引所』を運営する、株式会社一冊の渡辺佑一さんは次のように話す。

現在、日本には2900社ほどの出版社があるといわれていて、近年は“ひとり出版社”も生まれています。さらに数多く存在する書店と各出版社が取引を行う際の手間は双方にとって膨大なものとなっている状況があり、オンラインでさまざまなやりとりを簡単に完結できるサービスが必要だという思いから『一冊!取引所』を立ち上げました。同システムを使っていただくと、書店が仕入れたい本を、出版社によっては1冊単位で直接取引することも可能になります」

 3月30日現在は109の出版社と1240の書店が『一冊!取引所』に参加。チャット機能で書店が仕入れ価格や送料などを気軽に出版社に問い合わせることも可能だ。

昨年1月からはクレジットカード決済サービスも始まりました。新規の小規模書店さんの場合でも、カード会社の与信の範囲で安心して出版社と直接取引ができ、受発注における双方のリスクが軽減されます。さらには、雑貨店や美容室など、他業種の方の“店先に本を置きたい”という要望も多く、それを叶えるシステムとしても好評いただいています」(同・渡辺さん)