2016年放送の朝ドラ『べっぴんさん』も母親が早逝
ここ10年で調べてみると、実母が放送開始時にすでに亡くなっている作品があった。2020年放送の『おちょやん』と19年放送の『なつぞら』だ。ただ、それらの作品は、のちに母的な存在として主人公の成長を見守る女性が登場する。『おちょやん』は継母の宮澤エマ、『なつぞら』は戦災孤児を引き取った家の母親、松嶋菜々子である。今回のような早期の母親退場とは少し違う。
放送開始時は生きていたのに第一週で亡くなる例は、直近の10年では2016年放送の『べっぴんさん』の1作のみ。『べっぴんさん』で、戦後の焼け跡の中で子ども服作りに邁進するヒロイン・坂東すみれ(芳根京子)の母親役を務めたのは菅野美穂だ。彼女も、朝ドラで初の母親役だった。また、亡くなったのも広末涼子演じるヒサと同じ放送5日目で、主人公を演じる俳優はまだ子役。メインの俳優が登場する前での退場となった。
大切な母親役を第一週で亡くならせるのは、ドラマとしてはリスクがあるが、『べっぴんさん』はどう乗り越えたのか。
『べっぴんさん』での亡き母は、刺繍を通してヒロインの子ども服作りという人生に大きな影響を及ぼし、また、母親役としての退場後は、「語り」(ナレーター)として、作中を通して重要な役回りを担った。
さらにドラマ終盤では、成長した娘の夢の中に登場。ヒロイン・すみれを演じた芳根京子と菅野が念願の“初共演”を果たしたシーンは、ドラマのひとつの山場にもなっていた。つまり、母の死はその後のドラマの盛り上がりの伏線にもなっていたのだ。