高知での新しい映画祭にかける思い
現在、安藤が主体となって取り組んでいるのは、「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」とのコラボレーションで今年11月に高知で開催する「龍馬祈願映画祭」だ。通常の映画祭のように作品を公募して審査を経て上映するほか、YouTubeやSNSなどを使った老若男女誰でも参加できる動画の募集、子どもたちが映画作りを学べるワークショップなど、さまざまなプロジェクトを進めている。
安藤自身も高知を舞台にした短編映画を製作して上映する。同時に'24年の第2回映画祭の準備も始めている。地元と一体となり、半永久的に続けなければ映画祭にはならないと思うからだ。
そもそも映画祭の企画がスタートしたきっかけは、安藤が高知の神社に頼まれて絵馬をデザインしたこと。それがコロナ禍で中断していた伝統的な祭り「龍馬祈願祭」を復活させることにつながった。
その後、安藤と小笠原さんがデザインして2種類の紙の絵馬を作成。全国の病院の小児科や小学校に配ると、2万人の子どもから、坂本龍馬のようなでっかい夢や願いが書かれた絵馬が送られてきた。そこに書かれているみんなの夢や願いを形にするため、安藤は映画祭をやろうと考えた。映画はいろいろなものを束ねて表現できる方法だと信じているからだ。
「高知の自然や、あたたかな人に触れると、すべての命にやさしい世界、みんなが望む未来を、ここから描いていくことができる。実現可能だと思わせてくれます。
映画監督、フォトグラファー、建設会社、飲食店、地元企業など職種は違っても、みんな同じことを願い、映画祭という祭りに向けて集結してきている。地元活性化のための高知らしい映画祭になると思います」
他にも、地元産品を使った商品の開発をプロデュースしたり、地元民も知らない地元の魅力を発掘してテレビ番組やYouTubeで発信したり。1人何役もの役目をこなし全力疾走しながらも、安藤はいつも楽しそうだ。
もう東京には戻らないのかと聞くと、即答した。
「ずっとここにいます。やっぱりね、魂が根付くところってあると思うんですよね。それに娘にとっては高知が地元ですから。
高知に初めて来たとき、ロサンゼルスみたいだと感じたけど、いつか、ここがハリウッドのように、映画文化を担っていくような場所になったらいいなと思います。高知には海も山も川もあって、撮り方によっては、“うわー、ここどこ? 日本!?”って驚くような場所もいっぱいあるし。
ここで皆の感性が花開いて、夢がかなってゆくと信じています」
高知と映画への愛を語らせたら、もう止まらない。
<取材・文/萩原絹代>
はぎわら・きぬよ 大学卒業後、週刊誌の記者を経て、フリーのライターになる。'90年に渡米してニューヨークのビジュアルアート大学を卒業。帰国後は社会問題、教育、育児などをテーマに、週刊誌や月刊誌に寄稿。著書に『死ぬまで一人』がある。