摂食障害は母子関係と結びつけられることが多い
母子の距離が近すぎ、一体化への願望が過剰だったことが悲劇につながったのではないかと、こんな分析もされた。
「こういう病気の子どもが出る家庭は、はた目には幸福そうに見えるが、あまりにも『家庭的』であることに執着しすぎるところがある。母親は、子どもの気持ちを理解できなければ親ではない、などと真正直に考えてしまう」(精神科医)
このように摂食障害は母子関係と結びつけられることが多く、それは今も続いている。この連載の第4回で触れたドラマ『リエゾン―こどものこころ診療所―』(テレビ朝日系)でも、拒食症の娘を持つ母が主治医の前でこう嘆いていた。
「ネットで調べたら、摂食障害は親の責任だ、なんて記事もあって。でも私、何もできなくて……」
また、一昨年『スッキリ』(日本テレビ系)でコロナ禍による摂食障害の増加が取り上げられた際、ダイエットで約20キロ(54キロ→30キロ台半ば)やせた娘の変化に気づけなくて後悔しているという母が登場。これに対しSNSでは「私の母は5キロ減った時点で気づいた。会話をしていないか、子どもを見ていないか、それだけだと思う」といった批判が視聴者からも飛び出した。
では実際、“摂食障害は母親のせい”なのか。いや、原因は複合的だ。
きれいになりたい、褒められたい、誰かに勝ちたい、自分をコントロールしたい、ストレスを紛らわしたい、心の傷を癒したい、大人になることや生きることから逃げたい、などなど。そこには大なり小なり、この世から消えてしまいたいという衝動も潜んでいる。
すなわち、摂食障害における「やせたい」には「消えたい」や「死にたい」の感情が含まれるところもあり、それが言葉として発せられることが多い。そこがいっそう周囲を不安にさせ、原因追及へと焦らせるのだ。
その焦りは時に、犯人捜しをエスカレートさせる。が、犯人捜しだけでは解決しないので、そこにこだわりすぎるのは逆効果。それよりはもっと未来につながることを考えたほうがいい。そこで役立つのが、実は母子関係なのである。
というのも、人間が生まれて初めて出会う他者は母。いや、それ以前から母の中で育ち、生まれてからも母によって育てられる部分が大きい。乳やミルク、離乳食などを与えるのももっぱら母であり、育児においては父よりもはるかに重要な立場にある。
また、摂食障害は女性がかかりやすい病気でもあり、根底には女性性をめぐるもつれも隠されていたりする。母は娘にとって女性的成熟の見本にも反面教師にもなるわけで、最も身近な女性同士が協力し合うことが好転をもたらしやすいのだ。
そこに着目した治療法に、再養育療法というものがある。摂食障害のやせ願望に「幼児期への退行」的な衝動が働いているとして、母に子の「育て直し」をさせるというやり方だ。
幼子にするようにして食べさせたり、添い寝をしたり、一緒に風呂に入ったり。成長過程のどこかで傷ついたり、つらい目に遭ったりしたことが病因になっているケースも多いので、そうなる前に戻り、成長をやり直すという発想でもある。
ただ、前出の母子無理心中事件や遠野なぎこのケースのように、母親が不安定すぎると、なかなか難しい。心中事件の母もそうだが、遠野の母も昨年自殺した。「やせたい」の裏に隠された「消えたい」という願望を母も同様に、あるいは娘以上に抱えてしまったわけで、こうなると共倒れにもなりかねない。