老いに抵抗しすぎると疲れてしまう
森田 どうしても行きたくない、やりたくないというときは、凹みませんか?
加藤 もう慣れているので気にしません。ケンカしても私が2秒で謝りますからね。まずは謝ってから友達に電話してグチります(笑)。「甘いパンが食べたい」と言うからアンパンを買ってきたら「チョココロネの気分だったのに。アンパンならいらない」と言われるようなことはよくあります。少し時間をおいてから、チョココロネを含めて3種類くらい買ってきて選んでもらったり。そんな感じです。
森田 綾菜さんは人との距離の取り方がうまいんでしょうね。そして、諦めないところがすごいと思います。否定されてもそこはうまくいなして、またいい方法を考える。なかなかできませんよね。
加藤 でも、もし加トちゃんが認知症になって私のことがわからなくなったりしたら、いったいどうなっちゃうんでしょう? 地獄ですね。
森田 綾菜さんには知識もあるし、茶さんも今の生活を続けていれば、認知症がかなり進んだ状態でわかるということはないと思いますよ。早く見つかれば、早く対処できますし、そのころには治療法もさらに進化しているかもしれません。綾菜さんなら、必ず打開策を見つけられますよ。
みなさんよく「ピンピンコロリで死にたい。どうしたらいいのか教えてほしい」とおっしゃいますけど、そのための方法なんてほぼないんですよね。唯一、それに向かうためにできることがあるとすれば、健康寿命を延ばすことなんですよ。
加藤 最近、加トちゃんが「生きてるだけで幸せだ」ってよく言うんですよ。その状態をできるだけ長く保ってあげたいなと心から思います。
森田 肉体的にも精神的にも社会的にも充実していて、生きがいを感じているのでしょうね。この「社会的に」というのも重要で、いつまでも仕事で加トちゃんを演じていられることがその幸せにつながっている。それは綾菜さんがサポートしているからこそだと思いますよ。
加藤 ありがとうございます。万が一、介護が必要になっても前向きに頑張ろうと思っています。ただ、加トちゃんが亡くなったときのことを考えると耐えられないんですよね……。想像しただけで涙があふれてきます。
森田 亡くなったときのことを考えるというのは、本当に愛しているからですよ。考えたくないことでも、考えることで、そうならないためにすべきことがわかるんです。
加藤 加トちゃんはロマンチストだから「死は終わりじゃなくて、次のステップに進むことなんだよ。生まれ変わったらまた一緒になれるから大丈夫!」と言うんです。それを信じて、強く生きなくちゃと思うんですけど……。
森田 綾菜さんにあえて言いますが、もう少し力を抜いてもいいのかな。茶さんをずっと今のままでいさせようと思い詰めず、この先も実年齢を自然な状態で受け入れて。
加藤 確かに、私のほうが加トちゃんの年齢を受け入れられていない気がします。
森田 人間は誰でも必ず老いるんです。そこに抵抗しすぎると疲れてしまうので、八分目くらいの頑張りに抑えたほうがいいんじゃないかとふと思いました。老いることをつらいことばかりと思わず、楽しいことを発見していってください。
加藤 頑張りすぎず、もう少しゆるめて無理をしないようにしていきたいと思います。少し気持ちがラクになりました。森田先生、ありがとうございました。
かとうあやな 2011年に加藤茶と結婚し、45歳差婚が話題となった。結婚13年目、夫を支えるため介護や食事法を勉強。著書に『加トちゃんといっしょ』(双葉社)がある。
もりたゆたか 医師、医療ジャーナリスト。現役医師として医業に従事し、種々のメディアや講演等で幅広く活躍中。近著に『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社)がある。