「幸いなことに内臓はなんともないんですけど、脚がねぇ」
今年で84歳を迎える中村玉緒さん(83)が異変に気づいたのは、今から10年近く前。70歳を過ぎたころから右脚に強い痛みが出始めた。
不安を救った“名医との出会い”
「痛くて痛くてハイヒールも履けないほどになってしまって。しまいには杖がないと歩けない、なんて事態に……。私、家でじっとしてられない性分ですのに、これには参りました。でも静かにしていると痛みが治るので、それでしばらく我慢してたんですけど、ついに耐えられなくなって、手術を受けることにしたんですわ」(玉緒さん、以下同)
玉緒さんが受診したのは、人工関節を専門とする病院で、告げられた病名は「変形性股関節症」。股関節の軟骨がすり減って変形することで股関節が痛む病気だ。
しかし、痛みは股関節に出るとは限らず、脚、膝、腰などに慢性的な痛みが出ることも。そのため、専門知識がある医療機関でないと正確な診断が難しい病気でもある。玉緒さんも痛みを訴えているのは右脚で、股関節の痛みはあまり感じていなかったようだ。
「先生が言わはるには、この病気、ほっておいてもよくはならないそうで……」
玉緒さんが受けた人工股関節置換手術とは、すり減った股関節の損傷面を取り除き、代わりに人工関節を設置する治療法。これによって、左右の脚の長さがそろう、痛みが取れる、きれいに歩けるようになるなど、さまざまな効果が期待できる。
さらに玉緒さんの主治医は、年齢などを鑑みて、身体へのダメージを最小に抑えられる最小侵襲手術(MIS)で施術した。これなら、手術の傷の大きさは通常の半分以下。切除の範囲が小さいため、術後の回復も早い。
手術後、リハビリを経てすっかり回復した玉緒さんは、ほがらかに笑ってこう語る。
「それまでいろいろやってもダメだったので、正直、痛みはもう諦めていたんです。でも今は痛みもなく、杖なしで元気に動き回れていますよ。人工関節が入っている違和感は、ほとんどありません。手術はあっという間でしたし、傷口も小さいし、怖がるほどのものじゃなかったですわ。だから、今、痛みに悩んでいる方は一度ちゃんと診ていただいたほうがええですよ」
膝や腰の痛みが長い期間続いていて、治療を受けているのになかなかよくならないという場合は、一度、股関節の専門医を受診してみるのもおすすめだ。
(取材・文/八坂佳子、大野瑞紀)