樋口さんを悩ませた「高齢者のがん」は決して人ごとではない。超高齢社会を迎え、高齢のがん患者は増加の一途。厚生労働省の統計では、85歳以上の乳がん罹患者数は、2016年は約6000人だったが、2019年には約7500人に増えている。
お手本がないからみんな右往左往している
確かに高齢になれば手術や抗がん剤のリスクは高まるが、同時に樋口さんのように手術に耐えうる元気なお年寄りが増えているのも事実だ。
日本乳癌学会による「乳がん診療ガイドライン」では、70歳以上でも効果的な治療の第1選択肢は外科手術とある。ただし、高齢者の健康状態は個人差が大きく、患者個々の状況を十分見極めるべきとしている。つまり、条件が整えば高齢だけを理由に手術を諦めることはないのだ。
とはいえ多くの場合、「まさかこの年になって手術?」と、本人も家族もとまどってしまうのが現実だろう。
「経験者として、まず皆さんにお伝えしたいのは、80、90になっても、がんにはなるということ。高齢になっても、治療の負担を減らすためには早期発見は大事ですね」
そして治療にあたっては、怪しげな代替療法など玉石混交のがん情報が錯綜するなか、やはり頼りになるのは主治医だという。樋口さんの手術も、年齢を考えて極力負担のない方法が選ばれた。
「信頼できる医師にしっかり診てもらって、家族共々医師ときちんと話をすることが大切ですね。私もおかげさまで、術後は痛みも後遺症もありません」
また、がんを経験した友人の話も参考になったとか。
「60も過ぎれば、女友達は乳がん患者だらけ。病気の情報は経験した本人がよく知っています。相手のグチでも聞いてやりながら、情報を集めるのもいい方法ですよ(笑)」
多くの人が80代、90代まで生きる超高齢社会の今、高齢者のがんの増加についてもしかりだが、「これほどヨタヨタ、ヘロヘロした人が増える時代は、誰もが初体験」と樋口さんは強調する。
「お手本もないから、みんな右往左往しているんです」
その意味では樋口さんこそが貴重な先達の一人。これから“ヨタヘロ期” を迎える女性が、将来右往左往しないために備えておけることとは?
「ある程度の年になったら、“文化系女子” も“体育会系女子” の趣味を持つことをおすすめしたいですね」
樋口さん自身、体育は苦手で、オペラや演劇の舞台に通う根っからの文化系。ところが、5年ほど前から、トレーナーの指導でストレッチなどのエクササイズを始めた。
「“身体は命を入れて運ぶ器” 。身体の調子しだいで、楽しめる趣味の幅も変わる。そんな大事なものは、ちゃんと面倒をみてあげなくては」