「標準治療」以外で助かる命もある
そもそもがんの治療では、科学的根拠に基づいて安全性、有効性が認められた最良の治療が「標準治療」として定められている。
「どこのがんのどのステージ(病期)なら、この治療か、あるいはこの治療が効果的」という具合に、がん種とステージごとに有効な治療法が細かく決まっているのだ。そのため、がん治療においては、この標準治療を行うことが医学界の常識なのだ。
だが、その一方で、標準治療が高い壁になることもあると善本さんはいう。
「いまの医学では、標準治療を終えたあとにがんが再発してしまうと、治療の選択肢がほとんどなくなり、多くの場合、治すためではなく延命のための全身抗がん剤が行われます。
いったん再発すると標準治療では積極的な治療を推奨していないので、多くの医師は“治療”することをあきらめざるをえないのです。
でも、岡田先生はそうした常識にとらわれず、標準治療で対応できない部分に対しては、標準治療以外のさまざまな治療にトライし、見事にがんを消してくれたんです」
岡田先生は、善本さんの病状を初めて診た際、どう思ったのだろうか。
「現代のがん治療では、転移があると全身に見えないがん細胞が散らばっていると考え、『全身転移説』が常識とされています。手術など、局所療法では取りきれないので局所療法は意味がないとされ、治療の選択肢は全身抗がん剤だけになっていました。
でも私は、転移があっても全身無数ではない『小数転移説』もひとつの考え方として取り入れ、実際に大腸がん多発肝転移・肺転移の患者さんを治していました。
善本さんのがんは広範囲に広がっていて全身転移のように見えましたが、転移箇所はリンパの流れに沿ったもので、モグラたたきのように再発箇所をひとつずつ丁寧に治療すれば治せると思いました」と岡田先生。
もし標準治療の抗がん剤だけしか受けていなかったら絶対に助からなかっただろう、と善本さんは振り返る。