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ー 北島三郎さんがかけてくれた言葉 ー 北島三郎先生が差し伸べてくれた温かい手

 

「デビュー15周年を迎えました」と丁寧に頭を下げてくれた大江裕さん。勇壮なだんじり祭りで知られる岸和田市出身で、がっしりとした体躯もエネルギーで満ちあふれている。その大江さんが、パニック障害で歌手を諦めかけたことがあるという。

北島三郎さんがかけてくれた言葉

「デビューした翌年の公演中のことでした。1曲歌い終わったときに心臓がドキドキして、足から崩れ落ちるように、その場に倒れてしまいました。すぐに病院に行きますと、血圧の上が200を超えていて。少し休むと130ぐらいまで下がるのですが、ステージに戻ろうとすると、また上がってしまうんです」

 そのステージは偶然にも祖父の出身地での公演であり、親族もたくさん応援に駆けつけてくれていた。

「自分でも何が起きたかわからず、検査を重ねた結果、パニック障害と診断されました。演歌が好きで、夢が叶って歌手になれたのに、音楽が流れてくると動悸がして、呼吸ができなくなる。手に力が入らず、マイクも持てません。医師からは、パニック障害を治すには、歌手を辞めねばならないと言われてしまいました……」

 歌手を諦めることもできず、歌うこともできず、悶々と家にひきこもり続けているうちに、うつ症状も現れ始めた。

北島三郎先生が差し伸べてくれた温かい手

 そんなある日、歌手として世に出してくれた師匠の北島三郎さんから呼び出しがかかった。期待に応えられなかった自分が申し訳なかったと、気がついたときには土下座をしていた。

「“ご迷惑をおかけして申し訳ございません”。他に言葉が見つかりませんでした。そうしたら、先生は“裕、よく頑張ったな。俺が薬になるから、俺のそばにいればいい”と、頭をなでながら優しく言ってくださいました」

 その日から歌手は休業、北島三郎さんの付き人として修業することになった。

「振り返ると、私がパニック障害になったのは、下積み経験もなくデビューしてしまい、未熟な自分に対するプレッシャーがのしかかっていたのだと思います」

 次第に、パニック障害とうつ症状は治まっていった。そしてステージで倒れてから1年4か月後に再びステージに立ち、今年15周年を迎えた。

「パニック障害になったことも15周年の流れの中の1つです。意味があったと思います。同じ病気の人にも、意味があったと思える時が来ると伝えたいのです」

 パニック障害も、適応障害も、うつも、治らない病ではない。

「心の不調は、心が風邪をひいた状態といわれますが、私は心が肺炎になった状態と言いたいですね。風邪は自分でも治せますが、肺炎は医療機関で治すでしょう。心の不調も、専門機関で治療すればそれだけ早く治せます」(奥田先生)

 現代病ともいわれる“心の不調”。誰もがかかる可能性があるということを知っておきたい。

デビュー15周年記念第2弾シングル『城崎しぐれ月/愛をこめてありがとう』8月2日、日本クラウンより発売 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

心の不調の代表的症状

【パニック障害】突然の強い恐怖や不快感の高まりが生じて、動悸、息苦しさ、吐き気、震え、めまい、発汗などの“パニック発作”を繰り返す。

【適応障害】自分の置かれている環境に適応できず、それがストレスとなって心身に支障を来してしまう。ストレスの原因を取り除くことで回復。

うつ病】気分が落ち込む、意欲がなくなるなどの精神的症状と、不眠・疲れやすい・だるいなどの身体的症状が長く続く。重症の場合は自殺念慮も現れる。

大江裕●演歌歌手。1989年、大阪府岸和田市生まれ。演歌好きの祖父の歌う北島三郎の歌を子守歌として育つ。TBS系『さんまのSUPERからくりTV』の「全国かえうた甲子園」に出演したことがきっかけになり、2009年に『のろま大将』でデビュー。

(取材・文/水口陽子)