そして、フジテレビ時代から懇意にしていた松下洸平のマネージャーとの雑談が出発点になり、出向前はライバル同士だった在京5局のプロデューサーなどドラマ制作経験者たちと、TVerでなにができるかアイデアを出し合った。そこから生まれたのが本作だ。

 本作は松下洸平が本人役として主演を務める、サスペンスコメディだ。松下は芸能界で活躍する一方で、実はある疑惑解明のために15年前から警視庁の潜入捜査官として芸能界に潜入していたという設定だ。

数々のバラエティ番組も登場

 劇中には、日本テレビ『ぐるぐるナインティナイン』、テレビ朝日『あざとくて何が悪いの? 特別編』、TBSテレビ『ラヴィット!』、テレビ東京『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』、フジテレビ『全力!脱力タイムズ』といったバラエティ番組が出てくる。

テレビ朝日『あざとくて何が悪いの? 特別編』(写真:TVer提供/東洋経済オンライン)
テレビ朝日『あざとくて何が悪いの? 特別編』(写真:TVer提供/東洋経済オンライン)
【写真】『あざとくて何が悪いの? 特別編』の田中みな実

 これらは実際に松下本人が、出演しているバラエティ番組だ。ドラマではバラエティの出演シーンを、松下が潜入捜査官としてこれらの番組に出演している設定にして放送する。

 ドラマに登場するバラエティ番組の中には、すでにテレビで放送されているものもある。視聴者は松下本人として見ていたはずだが、本配信ドラマの企画を知ると、それが潜入捜査官としての松下洸平だったのかもしれないと、混乱するかもしれない。

 そこに視聴者の意識を持っていかせたり、感情を動かしたりすることも小原氏の狙いの1つにあるという。

 まさにTVerだから実現できた各テレビ局にとっても初の試みとなる。小原氏は「それぞれのバラエティの世界観を壊さず、きちんと成立させるなかで、ドラマも撮る。どの番組でも初めてのことだったので、双方にとっておもしろくなる接点をどう作っていくかの挑戦でした」と振り返る。

TVerの小原一隆氏(写真:筆者撮影/東洋経済オンライン)
TVerの小原一隆氏(写真:筆者撮影/東洋経済オンライン)

 ドラマの尺や本数も、プラットフォームでの配信に向けたTVerオリジナル仕様になっている。1話の尺は約20分で、全5話。小原氏が「最近のドラマ視聴傾向を分析すると、長すぎても話数が多すぎてもよくない。気軽にスキマ時間にスマホで見られる尺と本数にこだわりました」と話すように、短尺の動画を好むYouTubeやTikTok世代との親和性も意識しているという。

「テレビ局のドラマとの違いとして、尺を決めなくていいことがあります。尺に合わせる編集をしなくていいのは作りやすかったです。制作側の意図がしっかり伝わる形で仕上がっています」(小原氏)