苦しいと公言することは、情けないことじゃない
「認知症が進み、気に入らないと子どものように駄々をこねる祖母の様子がショックで、叱りつけてしまうことも」
優しくできず、自己嫌悪に苦しんでいたという。4人で介護を続けて1年超。自宅介護に限界を感じた松村さんらは、ある決断をする。
「叔母たちと暮らして介護をしても、24時間、祖母と向き合っていると、身内なので感情のぶつけ合いになってしまうんです。このままだとお互いによくないと、プロのサポートの必要性を感じました」
その結論が特別養護老人ホーム(特養)への入所だった。大好きな祖母を特養へ入れることに悔しさや情けなさなど、さまざまな葛藤があったが、その背中を押したのは、祖母のひと言だった。
「祖母に話すと、『いいよ。おばあちゃん行くよ』と優しく言ってくれました」
特養に入ってからも、松村さんは3日に1度は会いに行き、散歩や食事の介護をした。入所から10年後、祖母は眠るように亡くなる。
「僕はやれることを精いっぱいやったので後悔はありません。祖母と2人で暮らしていたころ、布団を並べて語った時間は幸せでした。今も忘れられない温かい思い出として僕の中に残っています」
しかし、それは周囲の助けがあったからできたと語る。
「叔母たちに愚痴を言ったり、ねぎらい合うことができたことと、当時の事務所も僕たちに理解があって仕事を続けられたことが大きかったです。もし、常に祖母と一緒で、助けてくれる人がいなかったら、逃げ場がなくて耐えられなかったかもしれない。都営アパートでは近所の人が料理をお裾分けしてくれたり、孤立感はありませんでした」
時代の変化とともに近所付き合いもどんどん少なくなってきたが、助けてくれるはず、と松村さんは話す。
「思い詰めず、つらいことは『つらい』と言ったほうがいい。苦しいと公言することは、情けないことじゃないですよ。自分の夢を諦めず、できる範囲で精いっぱい、後悔しないようにやってほしいと思っています」
(取材・文/オフィス三銃士)