一連の事件は、もちろん単にパラフィリアだけが原因とは言えない。特別チームが報告しているように、ジャニーズ事務所のガバナンスの欠如や不作為、メディアや社会による問題の放置などの問題が複雑に絡まり合っている。

 しかし、もし早期に犯罪行為が認定され、パラフィリアの診断がなされていたならば、処罰に加えて適切な治療を行うことで、さらなる被害は防げたのではないだろうか。この意味においても、ジャニーズ事務所や社会の無関心、放置の責任はきわめて大きいと言わざるをえない。

性問題の専門家の養成を

 現在、刑務所では「性犯罪者再犯防止プログラム」が実施され、認知行動療法という心理療法を中心とした治療が行われている。また、医療機関でも、パラフィリア症の治療を受けることができる。

 一方、問題も多くある。一番大きな問題は、パラフィリア症の専門家がきわめて少ないという事実である。今回の事件を機に、社会は性犯罪の被害から目をそらさず、この問題を真摯に受け止め、人権教育や性教育の推進とならんで、性問題の専門家(被害者へのカウンセリングや治療、加害者の再加害防止のための治療)の養成や治療機関の拡充などを真剣に進めるべきである。


原田 隆之(はらだ たかゆき)Takayuki Harada
筑波大学教授
1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。法務省法務専門官、国連Associate Expert等を歴任。筑波大学教授。保健学博士(東京大学)。東京大学大学院医学系研究科客員研究員。主たる研究領域は、犯罪心理学、認知行動療法とエビデンスに基づいた心理臨床である。テーマとしては、犯罪・非行、依存症、性犯罪等に対する実証的研究を行っている