暑すぎた2023年の夏も少しずつ落ち着き、気温も徐々に下がり始めてきた。秋の到来である。ニンジン、じゃがいも、レンコン、ブロッコリー、じゃがいも、さつまいも──さまざまな食材が収穫の時期を迎えるが、最も栄養が豊富なのもその野菜が「旬」の時期と言われている。
「野菜類を1日350g以上食べましょう」という健康指標が全国に広まる昨今、食欲の秋に “野菜と栄養”にまつわる、知っておきたい真実を紹介しよう。まずは以下のレポートを見てもらいたい。
野菜はそのまま食べても、栄養素はあまり吸収できない!?
《野菜を摂ったからといって、実はその野菜に含まれている栄養素をすべて吸収できているわけではありません。とくにサラダなど生の野菜をそのまま食べるだけでは、ほとんどの栄養素を無駄にしています》
これは学術博士・栄養士の佐藤秀美さんの著書『野菜が決め手! 栄養の「こつ」』(柴田書店)の一節だ。ほとんどの栄養素を無駄にしているとは一体──? それは野菜のビタミンやミネラル、抗酸化物質などの栄養成分が細胞の中に存在するからだという。
同書によれば、栄養成分が閉じ込められた細胞は細胞壁で覆われ、さらに細胞同士はペクチンという糊の役割をする成分で貼り付けられている。どちらもヒトの消化酵素では分解できない食物繊維でできており、飲み込む前にこれらを壊さなければ、栄養成分を効率よく吸収することはできないのだという。さまざまな栄養成分のなかでも脂溶性の「カロテノイド※」は吸収されにくいことがわかっており、例えばニンジンなどに含まれるβカロテンについては生野菜の状態での吸収率はなんと、10%以下だとの報告もある。野菜は生の状態が一番栄養があるのでは……? と、驚いた人も多いだろう。
動植物に広く存在する黄色または赤色の色素成分。強力な抗酸化力を持ち、活性酸素を除去する効果がある。夜盲症や生活習慣病などをはじめとする疾病の予防に効果的だが、人間をはじめとする動物は、カロテノイドを体内でつくり出すことはできない
そこで紹介したいのが、前出の佐藤秀美さんの著書『野菜が決め手! 栄養の「こつ」』のなかでも触れている「ヨーグルト」の重要性。「野菜+ヨーグルト」でカロテノイド吸収率がアップする」との記述がある。
これは、ヨーグルトに含まれる脂肪の粒子はとても小さいので、一緒にとった食品中の脂溶性ビタミンの吸収率が高まるからだ。 さらに、最新の研究では、乳酸菌がヨーグルトの発酵時に作り出す「EPS(菌体外多糖)」という成分を多く含んだヨーグルトと合わせて野菜を摂取することで、野菜由来のカロテノイドの吸収率が向上したという研究結果が出ている。
アメリカの臨床栄養学会誌に掲載された研究は、16人の「野菜のみ」と「野菜とヨーグルト(無脂肪)を一緒に摂った場合」の血中のカロテノイド濃度を測定。βカロテンは1.8倍、リコピンは6.5倍も吸収率が高まることがわかった。
また、ヨーグルトを選ぶ際は、「EPS(菌体外多糖)」が多いものほどより効果的であるという。 カロテノイドが吸収されにくいのは、「小腸」の構造にある。腸の細胞はムチン層と呼ばれる水の層のようなもので覆われており、脂溶性のカロテノイドは水と混ざりにくいため、このムチン層に阻まれてしまうことが原因だという。
前出の研究では、ヨーグルトが作り出すEPSの濃度が高いほど、カロテノイドの吸収率が高まったというデータがある。多くの乳酸菌がEPSを作り出すが、その量は乳酸菌によって差があり、カロテノイドの効率的な吸収のためには、EPSを多く作り出す乳酸菌を選ぶことが大切だという。
“ヨーグルトを一緒に摂る”だけなら……誰でも簡単に実践できそう。野菜の栄養をまんべんなく吸収できるワザを活用して、今日から健康習慣をスタートしよう。下部におすすめのレシピも公開中!
佐藤秀美さん
横浜国立大学を卒業後、9年間電機メーカーで調理機器の研究開発に従事。その後、お茶の水女子大学大学院修士・博士課程を修了。専門は食物学。複数の大学で教鞭をとるかたわら、栄養士免許を取得。著書に『野菜が決め手! 栄養の「こつ」 Q&Aでよくわかる健康生活のための野菜のとり方』(柴田書店)他多数。
【野菜×ヨーグルト】おすすめレシピ
野菜ソムリエによる、野菜×ヨーグルトのおすすめレシピ2選を紹介。おためしあれ!
チキンとロースト野菜 ~オーロラヨーグルトソース~
教えてくれたのは・・・
●野菜ソムリエプロ 安部加代子さん
「野菜は彩りをポイントに、お好みで数種類選ぶといいでしょう。野菜をあらかじめ油でコーティングし、リコピンたっぷりのケチャップとヨーグルトを使ったオーロラソースを合わせることで、カロテノイドをより効率よく吸収することができます。また、お肉をソースにつけ込むことで、しっとり柔らかく仕上がります」
冷凍トマトとヨーグルトのイタリアン風スープ
教えてくれたのは・・・
●野菜ソムリエプロ 安藤由美子さん
「トマトは価格が安いときに買って、カットして冷凍しておくと便利。冷凍することでトマトの細胞壁が壊れ、ヨーグルト を合わせることで、カロテノイドの吸収率アップが期待できます。暑いときは冷やして冷製スープにしても。トマトと ヨーグルトの酸味がクセになる美味しさです」