沙姫さんは、国選弁護人からこんなアドバイスをされていたという。
「弁護士の先生からは“事件に関わっていないなら、供述をする必要はない。完黙でいいよ”と言われていたので、2人ともそうしました。警察、検察それぞれの取り調べは長くて1日1時間、短いときには15分でした」
問題の宅配便の宛名は英語だったようで、筆跡鑑定はなかったが、覚醒剤使用を疑われて尿検査は行われた。
「もちろん、2人とも陰性。家宅捜査もありました。当然ですが、潔白なので、何も出てこなかったようです。警察も検察も証拠は宅配便の宛名だけで、ほかには何もなかった。釈放されるとき、弁護士さんから“処分保留で釈放だよ”と言われました」(沙姫さん)
処分保留とは、拘留期間内に検察が起訴できなかった際に、処分を後回しにすること。後日、起訴される可能性がまったくないわけではないが、ほぼゼロに近い。つまり、誤認逮捕、不当逮捕の可能性が極めて高いのだ。
「置き配にブツ」「過去の過ち」疑われた背景
では、なぜ、あらぬ嫌疑をかけられたのか? その背景について健さんは、
「当時、アパレル会社をやっていたため、荷物が毎日のように届いていました。だから宅配便は“置き配”にしていたんです。そんな状況を知っている人物が、僕らの住所を覚醒剤の送り先に利用しようとしたのではないか」
健さん自身の過去にも問題があったと、みずから告白する。
「若いころはやんちゃで暴走族。器物損壊、傷害などで逮捕された前科がありました。薬物は誓ってやったことがないです。それらの罪はすべて償ったし、いまでも反省しています。刺青も入っているので、警察には“こいつならやりかねない”“間違いないだろう”という思い込みがあったのではないですか」(健さん)
沙姫さんは釈放された後、世間の目が怖くて、外に出られなかったという。
「人が私を指差しているように感じて……。うちにいても、家の前を人が通ると、私たちの噂をしているように感じた。そうやって、少しずつ精神を病んでいって、何度か自傷行為に及んだこともありました」(沙姫さん、以下同)