「最初、企画書を読んだときは、そうですね、なんかギョッとしました」
妻に先立たれ一人、“春画”の研究に没頭する芳賀一郎を演じた内野聖陽(55)。“春画先生”と呼ばれる変わり者の研究者だが、ある日、弓子(北香那)という女性に出会う。弓子は芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ、いつしか芳賀に恋心を抱いていく。
『春画先生』は大人のおとぎ話
「年齢差がある男性と女性の出会いのストーリーのようでいて、こんな結末かという意外性にびっくりされると思います。実は随所に伏線があるにはあるんですけれど、物語は終盤に向かって怒濤の展開になり、意表をついてきます」
高名な研究者の役どころを通して、今回、春画の魅力を知ったという。
「春画は、ただいやらしい世界ではなくて、江戸時代から“笑い絵”とも言われるくらい、とっても人の気持ちを解放してくれる力がある。『春画先生』も、ちょっとした大人のおとぎ話のような素敵な作品になったと感じています。さまざまな年代の女性にこそ見ていただきたいですね。性愛についておおらかな世界観をきっと笑いながら楽しんでもらえる作品になっていると思います」
世捨て人のように暮らす、春画オタクの芳賀との共通点はどこかにあったのだろうか。
「真剣に深堀りしていくぞって気合が入るのは演技のことぐらいで……。他にオタクになれることはあまりないですね。芳賀との共通点というより、むしろ似ていない、こんなこと僕は絶対しないぞというところが、役を開いていくきっかけになったりします。
似ていない、引っかかる部分を探した方が、演じる時にとっかかりになるんです。ただ、芳賀は他者との会話が噛み合っているようで合ってないところがよくあって。そこは自分にもあるような気がする。
こういうつもりで喋っていたんだけど全然通じてなかったね、みたいなこと。でもそのすれ違いがおもしろかったりしますよね (笑)。」
恋心をストレートに表現する弓子の一方で、不器用な年上男性像がハマっていた。母性本能をくすぐるほどかわいかったと伝えると、
「そうなんですか。それは良かった! この作品の芳賀は、心の内部で起こっていること、特に恋愛感情をひた隠しにしているところがある。実はいつもドキドキしていて、弓子にこんなドレスを着せたら似合うかなとか、静かに盛り上がっている。そういう彼の心臓の鼓動や、密かにニンマリしている顔を想像していただきたいです」
弓子の怒った顔が魅力的と芳賀が言うシーンがあった。内野自身は女性のどこを魅力的と思うのか、聞いてみた。
「昔から変わってないんですけど、女性が真剣に何かに打ち込んでいる瞳とか姿が好きですね。その様子を横からそっと観察したい。夢中になっていて、こちらに意識がきてない姿は色っぽくていいなと思いますね」
演技に夢中になるその姿こそ色っぽい、そんな内野自身の素顔が垣間見えた。
克服したい欠点は
「克服したいことだらけです(笑)。ひとつ挙げるなら、時間の計算が雑なことかな。朝、準備してこの時間に出るぞって思っても、なぜかちょっとだけオーバーしていたり。仕事に遅れたことはないので支障はないんですけど、いつもギリギリでヤバいです(笑)。」
先生にとって自分はどんな生徒だった?
「引っ込み思案でしたね。幼稚園の先生には、あの引っ込み思案の内野くんが役者になるなんて夢にも思わなかったと言われます。実際、今でも僕は自己顕示欲は少ないほうだと思う。なのに、こういう職業をやっているのは自分でも不思議です」
出演/内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実