公園で散歩、家族団欒そんな日常にある戦争
ウクライナを撮影した渡部の写真からは、リアルな現状が伝わってくる。攻撃され、めちゃくちゃに破壊された家や商店。道ばたに放置され残骸と化す戦車。
だが中には、戦時下とは思えないような都会的なショッピングモールや、のどかなひまわり畑の写真もある。
「どうしても、激しい戦闘の写真や映像が求められがちです。だけど戦場には、残虐性だけではなく、日本と変わらない日常もあります。学校に行ったり、恋人とデートしたり、公園でペットと散歩したり、家族との温かな時間があります。
でも、みんなで食事をしているときに突然停電になったり、ミサイル警報が出されたりもします。そんな戦場の暮らしを、写真を通じて日本の人たち、特に若い世代に知ってほしいんです」
ウクライナは親日国としても知られる。戦争前は、日本の回転寿司をまねて作った店や、ラーメンバーガーなる奇妙なハンバーガーをおいしそうに食べるウクライナ人の姿があった。浮世絵が飾られたユーモアたっぷりのそれらの店も、今はもうない。
「戦地から帰国するたび、日本は奇跡の国だと改めて思います。食べ物があるだけではなく、何を食べるかを選ぶことができる。ほとんどの子どもが学校に通える。ほとんどの大人が、何か仕事がしたいと思えばできる国です。
戦時下で、幸せとは何かを尋ねると多くの人々が“やりたいと思うことをやれること”と答えます。その幸せの条件が整えられている国が、日本なんです」
もちろん日本でも、広がり続ける格差など問題は山積みだ。
「実際に世界を見てみると、イギリスやフランスの格差はもっとひどい。アメリカやインドはさらにひどい。中国やロシアはもはや別世界です。決して壊すことのできない階級社会があり、その構造を変えようとする行為は、自分自身や家族の死をも意味します。
日本の安定性はまさに奇跡ですが、世界からするととてもクローズドな国という一面もある。日本で暮らす外国の方々は大変だと思います」
今月初めには、イスラム組織『ハマス』が突然イスラエルを攻撃。連日多くの死者を出しており、アメリカのトランプ前大統領は「第三次世界大戦の脅威が迫っている」と発言した。遠く離れた国の戦争は、もう人ごとではない。
「僕は戦場の人たちから、家族の時間が何よりの幸せだと教えてもらいました。日本で、平和のために僕たちができる第一歩は、優しい日々を大切にすること、家族を愛することだと信じています」
戦場の日々を写し取った一枚の写真から何を感じるか。家族や周りの人とともに話し合い、現地の人に心を寄せるだけでも、きっと未来は変わる。
戦場となったウクライナを通して「戦場は日常でできている」と、ニュースやSNSでは知ることができない姿を渡部が伝える最新著書。(ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子版、書籍ともに発売中)
取材・文/植木淳子