確かに、ここまで“末期がん患者らしくない末期がん患者”も珍しい。その境地に至った理由とは? 現在の心境を聞いた──。
抗がん剤の治療はしないと決めた
「まだ毎日、電車で会社に通っています。ここへきてめちゃくちゃ仕事を振られてるんです。俺、末期がん患者なのに(笑)。最近は宣伝プロデュースをしているすべての映画のエンドロールに“叶井俊太郎に捧ぐ”と入れてるんですよ。だから、公開した段階でまだ生きていたら“死ぬ死ぬ詐欺状態”ですよね。ちなみに、関わっている映画の中に来年9月公開というのがあって、それが公開されるころにはさすがに死んでると思うんだけど(笑)」
抗がん剤治療は、選択していない。
「最初の告知のときに、『抗がん剤治療をしてがんを小さくして手術することになるけれども、成功率は20%程度』と言われて、確率低すぎじゃん!て思って。抗がん剤って毛が抜けるし具合もかなり悪くなるっていうじゃないですか。治る確率も低くて動けなくなるなら、動けるところまで動いていたいし。何はともあれ、ハゲるのは嫌ですしね」
「死にたくない!」という、絶望感は一切抱かなかった、という。
「20代からいろんなことをやってきたし、特に我慢をしてきたこともない。この世に全然未練がないので。今回は親しい人たちと対談もできたし、よかったですよ」
叶井さんが映画業界で有名なのは、その破天荒な生きざまも大きな要因だ。
自分の興味の赴くまま、海外から変わった映画を中心に買いつけては宣伝を担当。結果的に大ヒットとなったものの、前述の『アメリ』は内容をまったく勘違いして買いつけた作品だった。一躍脚光を浴びたそのエピソードがもととなり、'03年の月9ドラマ『東京ラブ・シネマ』(フジテレビ系)の主人公のモデルとなったことも(主演は江口洋介)。しかしその後、設立した会社を倒産させ、自己破産も経験。現在は転職先の映画配給レーベルで宣伝プロデューサーの職を続けている。
私生活では3度の結婚・離婚を経て、'09年に倉田さんと4度目の結婚をした。なお、これまで関係を持った女性は600人以上だという。
「10代のころから遊んでいたけれど、社会人になってからは(『アメリ』のヒットで脚光を浴びた)あのころがいちばんブイブイ言わせてましたね。昨年から映画業界では“性被害”という言葉が駆け巡っていますが、俺はすべて“性合意”でしたから。がんを公表してから、SNSのDMにそんな“性合意”をした女性たちから連絡が来るんですよ。『ニュースを見ました。覚えてますか?』って。ごめんなさい、覚えてないんです……」
そんな波瀾万丈の人生にはつきものともいうべき、細かい処理が続いている。
「3番目の元妻との間にいる子どもの、養育費が滞ってしまっていて。調停員さんから『養育費の件で……』と連絡があって、『すみません、今末期がんなんで、もうすぐ死んでしまうんですよ、ごめんなさい』と言ったら先方が絶句していましたね。本当ですからね。仕方がない」