NHKはモデルと認めていないが
蒼井優演じる大和礼子のモデルが飛鳥明子(あすか・あきこ)さんだということは、NHKは公式には認めていない。だが、2人には共通点が多いという。
「大和礼子は梅丸少女歌劇団の初期のスターとして描かれていましたが、飛鳥明子さんも、梅丸少女歌劇団のモデルである大阪松竹歌劇団の前身・松竹楽劇部の初代トップスターです。《ダンスの神様》と呼ばれていたといいます。また、2人とも歌劇団の『桃色争議』というストライキで責任をとって引退し、その後、座付き楽団のミュージシャンと結婚しています」
NHKの朝ドラ制作スタッフが、放送スタートするよりかなり前に、大阪松竹歌劇団に詳しい人物に飛鳥明子さんのことを聞き取り調査していたともいうから、大和礼子というキャラクターを作るうえで参考にしたことは間違いないだろう。
飛鳥明子さんは明治40年12月14日生まれ。実家は大阪府高石の開業医で、大阪の金蘭会高等女学校に学んだ。大正11年、松竹楽劇部の創設と同時に同部に入団、関西でのクラシックバレエの草分けで、つま先立ちになるトゥダンスがとても得意だったという。
飛鳥さんの稽古の様子をのちに後輩が回想している。
《楽劇部の稽古場は松竹座の5階にあり、飛鳥さんはいつも一人で練習されていました。他の生徒は邪魔しないように立ち入らず、非公開でしたね。ダンスへの熱い思いが背中からビンビンと伝わってきました》(松本茂章著、『大阪人』連載「OSKストーリー80年の夢」より)
蒼井優演じる大和礼子にも、梅丸少女歌劇団の稽古場で同じようなシーンがあったことは『ブギウギ』ファンなら思い出すだろう。
趣里演じる福来スズ子のモデル・笠置シヅ子も、『東京ブギウギ』が大ヒットしたあとに飛鳥さんのこう述懐している。
《私、飛鳥さんにとてもかわいがられたものですから、いまだにいろんなことが耳に残っています。それが私の舞台に立っている一生に、どれだけ役に立っているかわからないです》(『芸術新潮』1950年7月号より)