犯罪に転落するケースも少なくない

 ショッキングな話だが、生活苦から犯罪に手を染める高齢女性も後を絶たない。

「昔からある話ですが、売春はなくなりませんね。70代、80代でもです。同じ女性が、何度も何度も繰り返す。それしか収入を得る手段がないのでしょう。

 あと、よくあるのは介護現場での窃盗です。施設で入所者の買い物のお金をくすねたり、おつりをごまかす、訪問介護では訪問先でお金やものを盗む。相手が認知症だったりすると、簡単に盗めてしまいますから。

 1回は大きな額ではないのですが、残念ながら福祉事務所で耳にする話です

 明るみに出れば解雇となるのが一般的だが、それとて別の事業所で仕事に就けないわけではない。繰り返し犯罪を重ねるケースもあり、闇は深い。

遠慮せず福祉制度を利用して

 十分な頼りとはいえない年金制度だが、他にも低所得者を救済する制度はいくつかある。生活保護がいちばんのセーフティーネットだが、それ以外に藤田さんがすすめるのが、「リバースモーゲージ」と「無料低額診療事業」だ。

「前者は持ち家がある人がお金を借りられる制度です。民間でもやっていますが、社会福祉協議会が実施している公的制度は福祉目的なので、安心かつ審査も厳しくありません。

 条件はいくつかありますが、いよいよ働けないとなったらじゅうぶん利用する価値はあります。後者は、低額や無料で医療を受けられる施設で、数は少ないですが各都道府県に設置されています。

 身体に不調があっても貧困から病院に行こうとしない高齢者は少なくないので、知っておいてほしいですね」

 高齢者になると、インターネット環境からも疎遠になり、さまざまな情報が入りにくくなる。また、福祉制度のお世話になるのは恥ずかしいという思いが強い世代でもあるだろう。

 しかし、高齢女性の貧困は、国の年金制度の不備から生まれた副産物でもある。紹介した2つの制度についてはもちろん、困ったら自治体の福祉担当課に気軽に相談し、受けられる支援を上手に利用することを考えてほしい。

お金がない……! ときに頼れる制度2つ

その1 「持ち家利用」で現金を得る!

「リバースモーゲージ」は、持ち家を担保としてお金を借りられる融資制度。持ち家はあるけれど現金がない、という人にとっては、住む家を確保したまま収入が得られるのが利点。

 公的な制度は、各自治体の社会福祉協議会が窓口となっている。利用者は65歳以上、親以外の同居人がいないことが条件なので単身女性は対象内。

 土地付き一戸建てが対象となり、評価額の7割まで貸してくれる。ただし、借り主の死後は貸付金を返すか、物件を処分することになるので、財産を残すことは難しい。

その2 無料低額診療施設で医療費を減らす!

 医療費の負担に困っているなら、ぜひ無料低額診療事業を利用したい。

 あまり知られていないが、経済的な理由で必要な医療が受けられない事態を避けるための制度で、低所得者、ホームレス、DV被害者などが対象。低額または無料で診てもらえる医療施設が全国に約700か所ある。

 お金がなくて医療を受けられない、医療費を払うと生活に困るなどのケースで利用できる。住まいの自治体の福祉課、社会福祉課などに問い合わせを。

藤田孝典さん●社会福祉士。NPO法人ほっとプラス理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。著書に『脱・下流老人』(NHK出版新書)など。
藤田孝典さん●社会福祉士。NPO法人ほっとプラス理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。著書に『脱・下流老人』(NHK出版新書)など。
【グラフ】高齢者の年間所得割合、高齢者の労災事故死の推移
教えてくれたのは……藤田孝典さん●社会福祉士。NPO法人ほっとプラス理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。著書に脱・下流老人(NHK出版新書)など。

(取材・文/野沢恭恵)