11月5日未明、新宿区歌舞伎町の路上でホストクラブ勤務の男性を、その客と見られる女性がナイフで切りつけるという刺傷事件が発生した。
「度を超えているなと……。人として間違った行動を取っている人が堂々としている異常さがありました」
被害者男性に対し応急処置を行ったアズール株式会社代表の青笹寛史氏はそのように話す。青笹氏は医学部医学科を卒業し、医師免許を取得している。
被害男性を応急処置した男性が告白
青笹氏が「度を超えている」「異常」と振り返ったのは、事件の内容ではない。確かに事件自体も人をナイフで切りつけるという凄惨なものだったかもしれない(両者に事情はあれど)。しかし、それ以上に現場で感じたのは応急処置にあたった現場で見た風景についてだ。
青笹氏は歌舞伎町で食事をした際、事件に遭遇した。
「私が現場に居合わせたのは切りつけられた被害者男性が倒れ込むところくらいでした。最初は通り魔事件という可能性も捨てきれなくて、いったん(自分たちの)安全確保を第一に考えなければならないので、まずは犯人がどういう状況なのか、安全確保ができているかを確認しました」(青笹氏、以下同)
その後、被害者男性に駆け寄り救急車を要請、そしてAEDの確保、現場で使える救急キットの手配などを周囲の人に頼んだ。
「救急車については他の方も呼びかけていたためか比較的早くに動き出してくれましたが、ほかは……。私が男性の安全確保をした後に、“AEDを持ってきてください!”と言っても、みなスマホで撮影を続けていました。(「あなたにお願いしますと」)その場にいた人を指名しても、自分を指してるのかとキョロキョロするわけでもなく、無視してスマホのカメラを向けてきて……」
一般人ばかりの場における応急処置では、戸惑う人が多いため指名する形で「あなたはAEDを探してきてください」と具体的なお願いをすることが推奨されている。
しかし、現場に居合わせた多くの人らの感情は、身近で起きた事件への“戸惑い”などではなく“好奇心”だった。それも画像としてスマホに収め、友人もしくはSNSで披露したいがためのものだろう。
「(歌舞伎の舞台などにいる)黒子じゃないんですけど、本当に何を言っても頼んでもこちらに反応してくれなくて……怖いなと」
黒ずくめの格好で顔も隠した『黒子(黒衣)』は、歌舞伎などの舞台において役者が演技をしやすく補助する係。黒子は舞台で、「そこにはいないことになっている者」「見えないことになっている者」、という約束事のうえで存在している。実際には見えているのだから。
しかし、図らずも“歌舞伎”町で起きたこの事件。事件現場の野次馬たちは、そこに存在しているのに「いない」かのように青笹氏の声に反応しない。また逆に野次馬は応急処置にあたる青笹氏が「見えていない」かのように、救助を無視し被害者男性に対し、スマホのカメラを向け続けた。