リーダーが信頼されていることの大切さ。その最たる例が、栗山英樹氏が監督を務め、頂点に輝いたWBC日本代表だろう。決勝直前、大谷翔平選手が発した「憧れるのをやめましょう」は、これから語り継がれるであろう名言に違いない。識者2人は、「大谷翔平だから成立する言葉」と笑う。

 一方で、「藤井聡太八冠にも言えることですが、謙虚さやまじめな言動が、他の人のプレッシャーにならなければいいけれど」と吉田さんは付言する。

「ポジティブすぎる名言は、私たちのような凡人にとって、時に重すぎる。今年放送された『いちばんすきな花』(フジテレビ系)というドラマの中で、松下洸平演じる主人公が、『やまない雨はない』『明けない夜はない』といったポジティブな名言に対してアンチテーゼを唱えるシーンがあります。名言が一部の人しか言えない言葉になることで、圧倒的多数にとっては重荷になる。“名言疲れ”が起きない程度の名言のほうが健全かもしれない(笑)」(吉田さん)

 言われてみれば、プレッシャーを感じさせないために、阪神タイガースの優勝は「アレ」という言葉で共有された。言葉は、時代の雰囲気とともにある。だとすれば、2024年はどんな雰囲気の言葉が日本を包み込むのだろうか。

2023年をにぎわせた迷言・名言集

「お相手と私自身を守り続けることは極めて難しく、耐え難いものでした」羽生結弦 自身のスピード離婚に対してコメント)

「15年ともに歩んできたチームの出した決断」降谷建志 MEGUMIとの離婚に対してコメント)

「ブタ」(渋谷区・澤田伸副区長 区役所の公用チャットシステムで、区議会の女性議員を中傷)

「『全部のジャンルの審査委員長が松本人志さん』という、とんでもない状況なんですよ。中田で笑うのは知性が必要」(中田敦彦 自身のYouTubeチャンネルにて発言)

「ユニクロみたいな安い服」(谷原章介 情報番組『めざまし8』(フジテレビ系)にて発言)

「クマがかわいそう」(クマ駆除を行う自治体への抗議電話多数)

「俺は許さない」(永山瑛太 弟・永山絢斗が大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕された際の発言)

「やはりまだまだ頂上が見えるということはないのかなと思っています」藤井聡太 八冠達成に際して発言)

大野茂(おおの・しげる)●1965年東京都生まれ。阪南大学教授(専攻:メディア・広告・キャラクターなど)。慶應義塾大学卒業後、電通、スペースシャワーTV、スカパー!、NHKを経て現職。著書に『サンデーとマガジン』(光文社)『2時間ドラマ40年の軌跡』(徳間書店)

吉田潮(よしだ・うしお)●コラムニスト、イラストレーター。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆し、『週刊新潮』にて『TVふうーん録』など連載多数。『週刊フジテレビ批評』のコメンテーターを務める。近著に『ふがいないきょうだいに困ってる』(光文社)

(取材・文/我妻弘崇)