1月20日、パフォーマンス集団「電撃ネットワーク」の南部虎弾さんが他界した。死因は脳卒中。脳卒中のなかで最も多い脳梗塞は、脳の血管が詰まってその先に血液が届かなくなる病気。脳梗塞などの脳の血管のトラブルによる病気で亡くなる人は、年間10万人以上にものぼる。
「脳梗塞を発症して血管が詰まると脳の神経細胞が徐々に壊死し、対応が遅かったり、範囲が広ければ、最悪の場合、死に至ります」
そう話すのは、江戸川病院神経内科の西村絢子先生だ。たとえ、命が助かった場合でも後遺症が残ることも多いという。
「脳の細胞が死滅するため、その部分が担っていた機能が失われます。その結果、後遺症として左右どちらかの手足や口が動かなくなったり、言葉が話せなくなったり理解できなくなったり、また食べ物が飲み込めなくなるなどの障害が起こることがあります。重症の場合は寝たきりになることもあり、患者の多くが介護を必要とする状態になるのが特徴です」(西村先生、以下同)
命を守るためにも後遺症を残さないためにも、脳のダメージをなるべく抑えることが大切なのだ。いちばん重要なのは、発症から治療開始までの時間をいかに短くできるか。というのも、脳梗塞の“特効薬”を使えるのには時間制限があるからだ。
脳の血管に詰まった血栓を溶かしてくれる「t―PA」という薬は、発症から4時間30分以内にしか使うことができない。発症から時間がたつと詰まった先の血管がもろくなり、t―PAで血流を再開させたときに出血してしまうリスクがあるのだ。
「そのため、4時間30分以上たった患者さんには使えないのです。現在、t―PAの治療を受けているのは脳梗塞の患者さん全体の10%ほどと言われていますので、いち早く、脳梗塞に気がつくことが大切です」
こんな症状が出たら要注意!医師が教える3つのサイン
めまいやふらつき、何もないところでのつまずきなど、周囲にいる人に「なんだかいつもと違う」と感じる異変が少しでもあったときにチェックしたいサインは3つ。顔のまひがあるかどうか、腕に痺れやまひがあるかどうか、ろれつが回るかどうかだ。それぞれの確認方法を教えてもらった。
「1つ目のポイントは顔の歪みです。口を横に広げて『イー』と言ってもらい、片方の口、特に広角が下がっていないか、左右非対称になっていないかを見てください」
また、食事をしているときに片側から食べ物が落ちたり、こぼれたりすることもあるという。
「2つ目は腕の片側にまひがあるかどうか。目を閉じて両手のひらを上にした状態で、肘を曲げずに胸の高さまでまっすぐ挙げてもらってください。脳梗塞を発症していると片側の手が少しずつ下に落ちてきたり、手のひらが内側に戻ったりします」
食事の際に、いつも持てていた箸や茶碗が持てなくなる、落とすなども麻痺のサイン。見逃さないようにしたい。
「3つ目は言葉です。ろれつが回らない場合は脳梗塞が疑われます。舌を使って発音する『ラリルレロ』や、唇を使う『パピプペポ』を声に出してもらってください。言葉がスラスラ出てくるか、ろれつがうまく回っているか確認を」
この3つのなかの1つでも当てはまったら要注意だ。
「これは『FAST』と呼ばれるチェック法で、Face(顔)、Arm(腕)、Speech(ろれつ)、Time(時間)の頭文字から取られています。忘れがちなのが最後の『時間』。発症時間が正確にわかれば最適な治療法を選びやすくなります。必ず時刻を確認して、救急車を呼ぶ際にFASTの症状がでていることと発症時間を電話口で伝えてください。一刻を争うため、『大げさかも』、『勘違いかも』などとためらわずに、救急車を呼んでください。自家用車やタクシーはNGです」
大切な人の命を守るためにも、ひとつでも気になる症状があったら、すぐに119番に連絡したい。