近年急増している【のどのがん】

 この15年で2~3倍に増えているがんをご存じだろうか。それはHPVウイルスが関係している“のどのがん”だ。

 HPVウイルスというと、女性の子宮頸(けい)がんを引き起こすウイルスとして有名だが、子宮ではなくのど、というのはどういうことなのか。名古屋大学の西尾直樹先生に話を聞いた。

「簡単に言うと、オーラルセックスを含む性的接触によってHPVウイルスに感染してできたのどのがん、ということです。近年、患者数が増えているのは、性行為の欧米化が主な原因だと考えられています」

 2000年前後から普及したDVDやインターネットなどにより、欧米では一般的だった口や舌で相手の性器を刺激するオーラルセックスが日本でも広がり、それが原因でHPVによるのどのがんが増えたのだと考えられるという。

「HPVウイルスに感染したことによってできるがんは、中咽頭と呼ばれるのどの真ん中あたりにできるので、“HPV関連の中咽頭がん”といいます。

 感染しても発症まで10年や20年かかることもあり、40代や50代での発症が増加しています。患者数は男性のほうが多いですが、増え方は女性のほうが多いです」(西尾先生、以下同)

 女性でも増えている理由のひとつは、HPVウイルスは子宮だけでなく男性器にも感染するため。オーラルセックスでそのウイルスが女性ののどに感染することもあり、もともと患者数が少なかった女性のほうが増え方が多いのだ。

 なぜHPV関連の中咽頭がんは治りやすいのだろうか。

「中咽頭がん自体は決して治りやすいわけではなく、むしろ苦しむ人が少なくありません。ただし、過度の飲酒や喫煙による遺伝子のダメージが原因の一般的な中咽頭がんとは違い、HPV関連の中咽頭がんはウイルス感染によるもので、遺伝子のダメージが少ないので治りやすいのだと考えられています。

 5年生存率も、中咽頭がん全体では61.3%ですが、HPV関連に限るとステージ1や2の早い段階なら80%以上と高いです」

 以前から中咽頭がんの中には、なぜか簡単に治ってしまう人がいたのだという。

「昔はまだ患者数も少なく、HPV関連かどうか調べてはいなかったのですが、そういう人はきっとHPV関連だったのだと思います」

 HPV関連の中咽頭がんも先ほどの甲状腺がんと同様、のどの違和感が自覚症状のひとつ。こちらも専門は耳鼻咽喉科なので、違和感が2週間以上続いたら受診したい。