今年で結成35周年過去最大の全国ツアー
ミュージシャンとして気がかりだったのが、声であり肺活量の問題だ。だがそれらの懸念も、医師の献身的なサポートで払拭されたと話す。
「手術前に麻酔科の先生が病室にいらして、“なるべく細くて柔らかい管を使うようにします”と説明がありました。たまに麻酔の管で声帯に傷がついてポリープができることがあるらしいのですが、ボーカリストということでいろいろ配慮してくださったようです。肺活量も心配でしたが、“またしっかり肺を使っていけば補っていけます”との言葉をもらい、トレーニングの励みになりました」
当初定めた目標どおり、手術の約1か月後に復帰。復帰第1弾のステージは地元・神奈川で、ファンに元気な姿と変わらぬ歌声を届けた。
自身の体験を踏まえ、製薬会社のアストラゼネカが展開する肺がん啓発プロジェクト「知ってもらいたい、肺がんのこと」に参画。肺がんの早期発見と定期的な検診の重要性を広く訴えている。昨年11月にはオリジナル応援ソング『何気ないその笑顔が…』を発表したが、楽曲には病と向き合った経験も投影する。
「僕自身そうでしたけど、がんというのは自分一人の問題ではないんですよね。家族の問題であり、仲間の問題でもあって、周りの支えがあるから強くいられる。闘病して日常に戻ったとき、以前のようにできないことも出てくるかもしれない。でも自分にはできないと悲観的になって人生を狭めてしまうのではなく、何かしら今の自分にできる役割を果たせたら。それは周りを笑顔にすることかもしれないし、喜ばせることかもしれない。何より早期発見・治療をすれば、また元の日常に戻れる可能性は高く、そこでまた支える側になる自分を取り戻せる。そんなことを伝えられたらという気持ちでいます」
手術から丸5年がたつ今、予後は順調で、抗がん剤や放射線治療、投薬の必要もなし。現在は年に一度の定期検査を行い、同時にシンガーとして精力的な活動が続く。今年は2月から教会ツアー『Ryuichi Kawamura Presents No Mic, One Speaker Concert at Church Tour 2024』がスタートし、また5月にはLUNA SEA結成35周年を迎える。
この大きな節目を記念し、過去最大規模の全国ツアー開催を宣言しているが─。
「35周年といっても、本当にあっという間でしたね。振り返るといろいろなことがあったけど、感覚的にはすごく短かったというか。昨年末にアリーナツアーを行いましたが、今回はそのとき行けなかった場所を中心に回るつもり。アリーナにはみなさん各地から集まってくださったけど、僕らのほうからみなさんのところへ出向けたらと」
がんを克服し、日常を取り戻した今、ミュージシャンとして思うことがあるという。
「僕自身が本当に命を救ってもらったという意識が強くあります。この経験は一つのギフトで、今まで振り向くことなく走りすぎていたぶん、取りこぼした宝物をもう一度掘り起こせと神様が言っているような気がして。今自分自身新しい楽器になったような感覚があって、それをうまく鳴らせるよう自分と向き合っているところです」
バンドも35周年を迎えた今、やはりこのメンバーと共にステージで音楽を奏でることに幸せを感じると話す。「何よりこうして音楽をやれていること自体に大きな充実感があって。みなさんにまた新しい音楽を元気にお届けしたいと思っています」
<取材・文/小野寺悦子>