2022年4月、『放送倫理・番組向上機構』(BPO)が“痛みを伴う笑い”を扱うバラエティー番組について“青少年の発達に悪影響を与える”との見解を示し、物議を醸した。
「コント番組では定番の“金ダライ”や、“熱湯風呂”や“熱々おでん芸”、さらには“ハリセン”も消えました。これにより、痛みを伴う笑いを売りにしていた芸人さんは、地上波での露出が少なくなったように感じます」
『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)や『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)など、数々の人気番組を手がけたテレビディレクターのマッコイ斉藤氏も、近年の規制の厳しさについてこう話す。
「ケガをする可能性があることや、いじめに見えるようなことは、もう極力やらないという時代になっています。僕らの若いころは、クレーン車を使って芸人さんを飛ばして海に落とす“人間大砲”や、生肉を持った芸人さんをぶら下げて大きな鍋でしゃぶしゃぶをさせて肉を食べる“人間しゃぶしゃぶ”などをやっていましたが、そういった演出は、もう完全にできなくなっています。いかにクレームがこない番組作りをするかが大切になっています」
古い笑いと新しい笑いの違い
ジャンケンで勝った人が自腹で商品を購入するという、マッコイ氏が生み出した人気企画『男気ジャンケン』も、当初は否定されたという。
「企画を出したときには“負けた人が全額支払う”という設定でしたが“いじめに見える”と指摘を受けたため“勝った人が全額払う”としたらOKが出た。ただ、今は“お金を支払わせる”ということ自体がダメになっているのではないでしょうか。最近はクイズ番組やグルメ番組ばかりで、お笑いだけで勝負しようという番組は古いと言われてしまうようになりました」(マッコイ斉藤氏、以下同)
かつてはゴールデンタイムで放送された『8時だョ! 全員集合』(TBS系)や『欽ちゃんのどこまでやるの!』(テレビ朝日系)といったお笑い番組は、少なくなった。
「今は芸人さんにお笑いで勝負をさせようって意気込みがテレビから消えてしまった。よく“表現する笑いが古いから”と言われることもありますが、僕は笑いに古いも新しいもないと思うんです。だって、みんな小さいころはそれを見て笑っていたはず。古い笑いと新しい笑いの違いは、何なのでしょう」
芸人という存在も変化していると続ける。
「芸人さんも、クイズ番組への出演や情報番組のコメンテーターをしている姿を見かけますが、それは芸人さんの本質からは、かけ離れている。こうした現状について話すと、芸人さんからは“今の時代、ムチャをしたらテレビに出られなくなっちゃうよ”なんて言われるんです。お笑いをやりたくて芸人になったはずなのに、お笑いができないって、僕はすごい言葉だなと思うんですよ」