「テレビは危険の疑似体験」
昔はよかった─。そんな単純な言葉でくくるわけではないが、前出の鎮目氏もこんな意見を語る。
「テレビに“人間はこう生きるべきだ”という社会の模範である姿を放送することを求めるのは間違いだと思うんです。私たちは、危険な場所や悪い人を避けて生活をするわけですが、テレビはその危険などの疑似体験ができる。むしろ子どもや一般社会の人が安全にいかがわしいモノに触れられる機会をつくるのがテレビなのではないでしょうか。私は俗悪なテレビ番組から学び、オトナになったと思っています」
小泉今日子は先日、雑誌の対談企画で、最近はバラエティー番組への出演がないことについて問われると、
《絶対出たくない。くだらないから》
と話して物議を醸した。すると1月27日出演のラジオ番組で、真意について小泉は、
「どんどん生活が苦しくなっているのに、例えば俳優さんとかがゲストに来て、クイズに正解したらその人が霜降りの牛肉をもらえるとか、何言ってるのって。その人、お金持ちじゃん、牛肉もらわなくていいじゃんって。くだらないって思うのは、そういうことなんですよ」
と、公共の電波を使ったテレビ番組が、視聴者の目線に立っていないと痛烈に批判したのだ。
とあるテレビ局員は、こんな思いを回顧する。
「世界各地の秘境を旅する『川口浩探検隊』シリーズが、大好きでした。ジャングルでたくさんのヘビに囲まれて危ない! と手に汗を握って見ていると、マングースを放ってピンチを回避する(笑)。番組はヤラセだったと明らかになっていますが、私はこうした過剰演出が悪いとは思いません。ドキドキ、ワクワクできるんですから。子どもたちに、夢を与えていた部分もあったはず。それも今やったら、大問題ですけどね……」
テレビの底力に期待したいが……。
鎮目博道 テレビプロデューサー。1992年テレビ朝日に入社。報道番組プロデューサーなどを経て、『ABEMA』立ち上げに参画し2019年に独立。著書に『腐ったテレビに誰がした?「中の人」による検証と考察』(光文社)など。
マッコイ斉藤 テレビディレクター。人気番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』の総合演出を手がけ『全落・水落シリーズ』『男気ジャンケン』などのヒット企画を生み出した。著書に『非エリートの勝負学』(サンクチュアリ出版)など。