「小4で宅建に合格」「小6の双子姉妹が英検1級に合格」など小学生が難関試験を
突破したというニュースを見るにつけ、わが子も何かに挑戦させたい! と思うのが親心。
半分以上が親の遺伝要素
しかし、思う通りには子どもは動かないもの。まだ集中力のない小学生の子供に、どう指導すればここまでの成果にたどり着くのか…との驚きと疑問を世の多くの親が抱いているのではないだろうか。
「学力の50%は親の遺伝要因で説明ができます。論理能力、空間認知力は70%くらい音楽だと90%くらいと言われています」
とは、脳科学者であり公立諏訪東京理科大学教授の篠原菊紀先生。世の中の常識、教育の常識と、ここ10年での研究の常識は大きく乖離しているとも話す。
「昨今は育て方の影響を過大視されているように思います。しかし、遺伝の影響は極めて大きいのです。ただし、この遺伝の影響というのは、“その人の持つ遺伝子の組み合わせ”の影響のことで、親がこうだから、とかいういわゆる血の話ではありません。受精卵ができるときの組み合わせの問題で変化しますし、兄弟間でも能力の違いが出ることも当然あるわけです」
つまり、遺伝は親の影響を色濃く受けるものの、個体差が非常に大きい。
「その一方で、ものごと、素質や才能じゃないと思っている人の方があらゆる面で伸びるのです。しかし、そういう努力する力、やり抜く力など、いわゆる非認知能力も遺伝の影響が50%程度あります」
遺伝、つまり持って生まれたものは認知能力でも非認知能力でも50%は持って生まれた素質が大きいということになる。
勉強や能力において、しばしワーキングメモリの機能の重要性が語られる。ワーキングメモリとは日常生活に大切な「思考力」「判断力」「記憶力」に関わる脳の動きで、メモリの力には個人差があるといわれる。
「ワーキングメモリの力は、学力と同様、社会経済的地位(親の収入や職業、教育の状況を組み合わせて評価したもの)や、認知機能にかかわる遺伝要因の影響を強く受けることが知られています。これも遺伝の影響は大きく、さらに家庭状況の影響もまた大きいのです」
アメリカの認知機能や遺伝子要因、社会経済的地位、教育歴、成績などを蓄積しているデータベースを使って調査を行ったオランダのアムステルダム自由大学が9~11歳を対象に調査を行った研究結果によると、ワーキングメモリは1年の加齢による伸び率<認知関連遺伝要因<1年の教育<親の社会経済的地位といった結果になった。
「しかし、2年単位で調査を行うと、2年の教育が、遺伝要因や、社会経済地位をも、しのぐことがわかったのです。つまり、学校や日頃の学習を2年のスパンでがっちり頑張れば、遺伝要素に関係なく、しっかりと伸びていくこともわかっています」
さらに、親の社会的な地位や経済力は大きく影響するとはいえ、それだけでいい結果に結びつくことはない、と断言。
「いわゆる経済的に恵まれている環境や良い導きと思えることでも、人によってはプラスに働いたり、マイナスに働いたりすることがあるということ。環境の影響は人を似せる方向ではなく、似せない方向に働くことがありますから、親がどんなにいい環境を与え、熱心に教育したとしても、子どもが“その気になる時にはなる”としか言えません」
ずば抜けた結果を残せる子供の多くは、親の教育、環境とともに持って生まれたものが大きいことはまちがいない。しかし親はある程度導き、勉強法をハンドリングすることはできても、半分の確率でうまくいかない――。
わが子にため息をつきそうになるとき、そう心に留めておくことも大切だ。
お話を伺ったのは 篠原菊紀先生 脳科学者。公立諏訪東京理科大学・工学部情報応用工学科教授・地域連携研究開発機構医療介護健康工学研究部門 部門長。応用健康科学、脳科学。「学習」「運動」「遊び」など日常的な場面や変わった場面での脳活動を調べている。ゲーム障害、ギャンブル障害などの全国調査にもかかわっている。