一方で、阿久津さんが取材したカナダ在住の乳がん患者さんによれば、職場の上司や仲間からも一切詮索されず、「困ったことがあれば言ってね」と言われるだけ。がんを告知する医師にも、まったく悲愴感がなくポジティブだったという。
多少でも知識があれば、悩む期間は短くなる
「病気を特別視せずに平等に受け止めてくれる文化はうらやましい限りです。がん=死というイメージの強い日本では、がん患者は何かと特別視され、生きづらさを感じてしまう。だからこそ、がんと生きられる、共生できる時代なんだってことを多くの人に理解してもらって、生きづらさを少しでも減らしていけたらと思っています」
そうした思いから、自身のテレビ局の情報サイトでも乳がんに関する情報発信を行ってきた。
「がんになったら悩むことがたくさんあるのに、そういうときに必要な知識は世の中にほとんどないんです。だからみんな初歩的なことで悩んでしまう。例えば乳がんはタイプによって治療法も違うのに、人と治療法が違うから重症かもしれないと悩んでしまったり」
医師に話を聞いてもらうにも短い診察の中ですべての疑問をぶつけることは難しい。
「多少でも知識があれば、悩む期間は短くなります。私は入院仲間のいろいろな話を聞いて、治療にもさまざまな選択肢があること、みんな病気だけでなく家族や仕事とも向き合っているということを知って、とても勇気づけられたんです。おかげで復活も早くなりましたね」
9人に1人の女性が乳がんになるが、生存率が上がっている分、困りごとも増えている、と阿久津さん。
「知らないというだけで、悶々と時間を過ごさなくてはいけないのはつらいこと。ポジティブに考えているほうが治療もうまくいくというデータもあります。だからがんになってしまったことは仕方がないので、まずは正しい知識を集めて患者仲間や医療従事者などと悩みや不安をシェアすることが大切だと思います」
取材・文/井上真規子
阿久津友紀 1995年、北海道テレビ放送入社。報道記者・プロデューサーとして長年乳がん患者の取材を行う。現在は北海道テレビ東京支社編成業務部長で、厚労省のがん対策推進協議会委員も務める。著書に『おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える』(北海道新聞社)