デビュー40周年でたどり着いた境地

「ボイストレーニングは受けていない。ライブで歌っているだけ」と笑う杉山。60歳を超えても、ヴォーカリストとしての力は衰えない。撮影/渡邉智裕
「ボイストレーニングは受けていない。ライブで歌っているだけ」と笑う杉山。60歳を超えても、ヴォーカリストとしての力は衰えない。撮影/渡邉智裕
【写真】音楽番組全盛の当時、視聴者の心をつかんだ“海・夏・リゾート”をイメージした楽曲

 デビュー10周年では、ライブ会場にサプライズでオメガトライブのメンバーを呼んだ。20周年には脱退した吉田が戻り、オリジナルメンバーでオメガトライブの再結成が叶った。

「20代のころの粗削りな勢いは出せなくなっていましたけれども、みんな成長して楽曲への理解度も深まって、オメガの曲をスムーズに表現できるようになった気がしました」(吉田)

 そして40周年を迎えた今、世界中の音楽が時を超えてネット上にアップされる時代になり、『真夜中のドア』が火付け役となって日本の'80年代のAORが世界中で再評価されている。椎野はこう話す。

「当時の杉山のヴォーカルは今も健在で、深みも増していますからね。世界中の音楽ファンに日本のAORを紹介できるアーティストになったのは、杉山の運命なのかもしれませんね」

 杉山清貴&オメガトライブの生みの親である藤田氏は'09年に他界した。しかし、名プロデューサー亡き後も、'80年代に音楽ファンを魅了した爽やかなサウンドは、より洗練され、ライブで聴くことができる。

 3月から『LIVE EMOTION』と銘打った杉山清貴&オメガトライブのファイナルツアーが始まった。リハーサルスタジオでメンバーたちに囲まれながら、杉山は人なつっこい笑顔でツアーに向けた心境を語った。

ソロになってからセルフプロデュースも手がけたおかげで、自分を客観的に見つめることができるようになった。そうするとね、オメガの曲をやるときは“オメガトライブの杉山さん”が降りてくるんですよ。だから好き勝手に歌い方を変えたりできない。

 オリジナルを忠実に再現しつつ、ふてくされることなく(笑)、大人になったオメガトライブのライブができることを僕らも楽しみにしていますよ」

<取材・文/伴田 薫>

はんだ・かおる ノンフィクションライター。人物、プロジェクトを中心に取材・執筆。『炎を見ろ 赤き城の伝説』が中3国語教科書(光村図書・平成18~23年度)に掲載。著書に『下町ボブスレー 世界へ、終わりなき挑戦』(NHK出版)。