おかっぱ頭になったのは完全な事故
高3の秋、『戦争ワンダー』に出演したダンサー仲間と一緒にケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台『犯さん哉』を見に行った坂口は、心から舞台を楽しみ、楽屋の八十田を訪ねた。
「古田新太さんがずっとブリーフ一枚で出ているナンセンスコメディーで、途中でお客さんが帰っちゃうような舞台で」と八十田は笑う。「そこへ涼太郎が来てくれて、泣いて笑ってすごく良かったと喜んでくれて」
そこで坂口は舞台で八十田が共演していた古田新太、中越典子、姜暢雄、大倉孝二、入江雅人、山西惇らが同じ事務所「キューブ」の所属であることを知り、さまざまな個性の俳優がいることに興味を持ったという。
「そのころオーディション雑誌を買って、シートを書いていろんなところへ出してました。でも自分はめっちゃビジュアルがいいわけじゃないから、ダメだろうなって思ってたんですよね。実際、お返事来なかったし。そこでキューブを知って、容姿の美しさだけじゃなくて、その人特有の何かがある俳優さんがいっぱいいたので、ここなら自分のことを見てくれるんじゃないかなと思って」
坂口はキューブのオーディションを受け、見事合格。八十田は「次に涼太郎に会ったときに『後輩になりました!』と言われてビックリしました。でも僕は裏から手を回してませんよ!」とうれしそうに笑った。
高3から事務所に所属したものの、それから1年間オーディションにはまったく受からず、レッスンに通う日々を過ごすことになる。その間、高校を卒業した坂口は「学校へ行ったほうがいい」という両親のすすめで、興味のあったファッションを勉強するため文化服装学院へ入学した。
「自分が成功するかどうかわかんないけど、どこかで大丈夫っしょ、いけるっしょみたいな気持ちはあったんです。でも他にも道があるかもしれないなと思ってファッションの勉強を選んだんですけど、途中で『私は服を作る側じゃない、着たいんだ!』って気づきました(笑)」
ちょうどそのころ、坂口に大事件が起きた。意図せず「おかっぱ頭」にされてしまったのだ。
「居酒屋でアルバイトしていたんですけど、耳に髪がかからないようにと言われたので、安くなるクーポンを手に初めての美容室へ行ったんです。それで切ってもらったらおかっぱになって。でも鏡に映った自分を見てみたら、すっごい似合ってたんですよ。山口小夜子さんみたい、モードだ!って思って。でもね、それ以来その美容室へは行ってないんです。しかも切ってくれた人が誰なのかもわかんなくて(笑)。向こうも見習いみたいな人で、『大丈夫かな?』と思いながら切ってたかもしれなくて、もうホントお互いに完全に事故だったんですけど、そこが噛み合ってしまったんですよね」
人生何が良いほうへ転ぶかわからない。ここから坂口はオーディションに続々合格しだしたのだ。
「いいんですか、拙者ですよ?みたいな気分で(笑)。でも偶然で自分がやろうと思わなかった髪形になったのがすごくハマってから、自分の容姿を受け入れられたのかなと思います。実は僕が18歳のときに撮ったプロフィール写真って、眼鏡かけてるんですよ。目が悪くて、高校のときから度がキツい眼鏡をかけていて。でもそういうレンズって、目がちっちゃく見えるじゃないですか? それが嫌でコンタクトしてダテ眼鏡をかけて。足の裏みたいな顔してるってずっと思ってたから、眼鏡で隠してたんです。でもおかっぱになったことで『自分がいいと思うものが、自分にいいとは限らない』ということに気づきましたね。私はこれじゃなきゃいけない、これが絶対似合うんだと思わないようにしたんです。誰かの『似合うと思うよ』を一回受け入れてみる──それはそのときから始まった気がしますね」