コロナのパンデミックの時、高齢者や基礎疾患者は「高リスク者」と呼ばれ、厳重な注意が呼びかけられました。もちろん注意するだけで絶対に罹患しないとはなりません。しかし少なくとも生命の危機に際して、用心深い行動を取ることに真剣に向かい合った人は多かったのではないでしょうか。この危機感こそがリスク管理の基本です。

「危機はあってはならない」というのは、何の役にも立たない精神論で、危機管理ではありません。「危機は必ずある」のです。

 巨額の報酬を得る立場になる、社会的認知が高まる、人から憧れられる立場になる、宝くじが大当たりする……。これらの状況は、狙ったとしても、意図せずにそうなったとしても、ハイリスク状態にある点では同じです。

 大谷選手、松本氏、いずれも本人は関与を否定しています。仮にそれが事実だとするなら、何らかのトラブルに巻き込まれるリスクに、もっと慎重に備えるべきだったと思います。

社長のハイヤー通勤はただの贅沢ではない

 スポーツや芸能ではないビジネスの世界においても、大手企業の社長や役員ともなれば、電車通勤はリスクが高すぎます。社長が専用車やハイヤー通勤をするのはただの贅沢ではありません。リスク管理です。

 私の元上司である大学教授は、ある時所属大学の学長に就任されました。お人柄の良さから敵を作らず、もちろん高慢な態度などみじんもない方ですが、今まで通り電車通勤をするとおっしゃったので、それは絶対やめるべきですと申し上げたことがあります。

 社会的な立場の「高さ」を考えれば、いつどこでどんなトラブルに巻き込まれるかわかりません。本人が全く意図せず犯罪や事件に巻き込まれる可能性もあるのです。痴漢冤罪などは、無実の証明がきわめて難しいともいわれます。

 その高い地位にふさわしいリスク管理は絶対に必要です。送金や買い物、取り引きは弁護士や会計士など専門家に関与してもらったり、二重三重チェックをかけたりといった対策は、不可欠なものといえるでしょう。皆さんも客観的に自分の位置エネルギーはどの程度なのか考えたうえで、必要な対策を講じてください。


増沢 隆太(ますざわ りゅうた)Ryuta Masuzawa
東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家
東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」として数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。