本作は、フィリピンとシンガポールとの合作。シェルターにはフィリピンの女性たちも集まる。性暴力やハラスメントは、世界共通で抱えている問題だからこそ『ブルーイマジン』でも日本だけの問題にしたくなかったという。
どんな心の傷があっても、生き延びていかなければいけない
「ジェンダーや性に関して、日本は教育が遅れている部分はあると思います。女性が鑑賞物であるという見方は、広告やメディアにおいてもまだある。社会は少しずつ変わってはきてはいるけど、“女はこうあるべき”というのもまだまだ根強いし、日本で#MeTooをテーマにとなると難しいんじゃないかなと思います」
そんな前例がないなか、何が松林を奮い立てたのか。映画を作るにあたって参考にしたドキュメンタリーに出てくる性被害に遭った少女の言葉が忘れられないという。
「その子は、PTSDに悩まされていて、学校にも行けなくなり、リストカットなど外的にも自分を傷つけてしまう子でした。その子が“過去は変えられないけど過去の意味は変えられる”と言ったんです。その言葉がすごく強く響いて、映画のなかでもこの言葉を軸にしようと思いました」
本作の中でも、主人公が過去の自分自身と対峙する印象的なシーンがある。
「誰かを救う前に、自分自身を自分の手で救ってあげたいと思いました。どんな心の傷があっても、やっぱり生き延びていかなければいけないから」
静かにそう語る松林の言葉は力強い。最後に、これから連帯していくためにどうしたらいいのか問うとこう答えた。
「何が大事なのかをみんなで議論していくことが必要だと思います。劇中に出てくるシェルター『ブルーイマジン』のように、同じ傷を持っている人たちが集まって承認し合える場所があったら、現実の社会でも変われるかもしれない。
今までの自分は間違いじゃないよって言ってくれるだけで本当に救いがあるし、希望がある。私もある種の責任感や使命感をもってこの映画をつくりました。これで終わりにしたくない。共闘していきたいと思いますし、いろんな意味で本当に仲間が増えていけばいいと思っています」
臆することなく言葉を発することができる「ブルーイマジン」が、現実の社会にもあることを心から願う。
映画『ブルーイマジン』
K's cinemaにて公開中。そのほか全国順次公開予定 配給:コバルトピクチャーズ
取材・文/睡蓮みどり
松林麗(まつばやし・うらら)/1993 年生まれ、東京都出身。松林うらら名義で『1+1=11』(2012年、矢崎仁司監督)で俳優デビュー。数々の著名な映画祭に出品された主演作『飢えたライオン』(2018年、緒方貴臣監督)を経て、2020 年に映画界のセクシャルハラスメント問題を扱った「蒲田前奏曲」を企画・プロデュース&出演。本作『ブルーイマジン』が初監督作品となる。
睡蓮みどり(すいれん・みどり)
大学在学中にグラビアモデルとしてデビュー。俳優として活動するほか、週刊書評紙『図書新聞』や『キネマ旬報』などで、エッセイや映画時評なども執筆している。主な出演作に『断食芸人』(足立正生監督)、『東京の恋人』(下社敦郎監督)など。著作には『溺れた女 渇愛的偏愛映画論』(彩流社)がある。2022年3月に『図書新聞』の連載の中で、映画監督・俳優である榊英雄からの性暴力被害について公表した。