ネットオークションではさまざまな種類の切手が取引されている
ネットオークションではさまざまな種類の切手が取引されている
【写真】プレミア価格で取引きされている「干支文字切手」

 当時は40枚の切手を1シートとして製造・発行していたため、残存していればあと39枚のエラー切手がこの世のどこかに存在していることになる。しかし現在に至るまで、所在が確認されているのはこの1枚のみだという。

エラー印刷でない通常のものでも、10万円ほどの値がつく切手です。状態があまりよくないものでも3万円ほどで取引されています

「伊勢志摩サミット特殊切手」は約3倍の価格に

 これに次ぐレア物とされるのが、1875(明治8)年に発行された6銭切手、通称「玉六のヨ」。たまごの黄身のような鮮やかな黄色で、「ヨ」の仮名文字の刻印があることからこう呼ばれている。

世界的な切手収集家である、ルーマニアのカロル2世のコレクションに収められていたことで知られています。約6枚現存していることがわかっており、2006年にはそのうちの1枚が約1000万円で取引されました

 こんな宝くじ級の超お宝が実家に眠っている可能性はさすがにゼロに近いが、もう少し身近なところではこんな面白い切手も。

2016年発行の『伊勢志摩サミット特殊切手』は、日本で初めてシルクを用いて作られた珍しいデザインです。発売当時の価格は1300円ですが、現在は4000円前後で取引されています

 また2004年に発行された、酉年の「干支文字切手」シートも人気。この年からシリーズとして毎年発行され、2015年の「申」で一巡した。

80円切手10枚で構成されており、それぞれに10人の書家が書いた『酉』のひと文字が印刷されています。同じ漢字文化圏の中国人がこぞって購入したことで品薄になったという珍しいいきさつがあります。額面は800円ですが、現在は2000円ほどで取引されています

 プレミアがついているのは一部の切手だけではない。まさか価値があるとは思いもしない古い年賀状が、思わぬ「珍品」であることも。

1944年から終戦までの約2年は、太平洋戦争が激化し年賀状どころではなかった時代です。厳しい戦禍をかいくぐってやりとりされた年賀状はそれ自体がきわめて希少価値が高く、5000~3万円ほどで取引されることもあります

 紙などの物資も貴重であった戦時中は、郵便を取り扱っていた通信当局ですら年賀状の自粛を呼びかけるほどだった。

 もし祖父母の家から古い年賀状を見つけたら、消印や通信文を確認してみよう。それが昭和19年、20年のものであれば、年賀郵便の取り扱いが中止されたなかで届いた、奇跡のお宝はがきといえる。

また、年賀状といえばはがきが一般的ですが、昭和の初めは封書の年賀状が存在しました。非常に珍しく、ものによっては10万円ほどのプレミアがついたこともあります。特に、昭和30年代のものが人気です

 なぜはがきではなく封書なのか。当時、ビジネスシーンの一部では「はがきではなく封書」という風習があったようだ。またコレクターの間では、封書の年賀状だけに押されていた特別デザインの消印も、価値を高める要素となった。

「切手ブームにかつての勢いはないものの、最近では『クールジャパン』効果で日本のアニメキャラクターの切手がアジア各国で人気の兆しを見せているようです。また国内では、レトロ郵便局を巡る旅がSNSで注目されています。いまや郵便は廃れゆくインフラですが、利用者が新しい価値を見いだしていることをとてもうれしく思います」

 総務省が今年3月に郵便料金の大幅値上げを承認し、日本郵政が今秋を目安に実施予定。実現すれば30年ぶりの改定となる。はがきは63円から85円に、定形郵便は84円から110円に改定される見込みで、改定に合わせた新切手の発売も予定。

 わずか数センチ四方の中で、色彩豊かにあらゆるものを表現する日本の切手は、まさに精巧な芸術品。とっておきの封筒や便箋を用意して大切な人へ思いを伝えてみてはいかがだろう。

板橋祐己 切手収集家、郵便史研究家。最近では、「レトロ郵便局」を提唱し、明治・大正・昭和の郵便局舎の再生・活用のための活動を展開