聖子という星は複雑な多面体

 落ち着いた生き方を好む人には、異様に見えたりもするのだ。ただ、3度目の結婚(2012年)あたりからは平和な日々を送っていた印象がある。しかし、その平和を崩すような悲劇が2021年12月に起きた。ひとり娘・神田沙也加の死だ。

 そのショックは計り知れないが、彼女は大学に通い始めて2年目の途中でもあった。法律の勉強にコツコツ励むことが、癒しにつながったという。興味を持って飛びついていたことが、救いももたらしたわけだ。

 もちろん、歌の力にも彼女はすがった。今年2月に発表したジャズアルバムで、エリック・クラプトン『ティアーズ・イン・ヘヴン』をカバー。4歳の息子を転落死で失ったクラプトンがその思いを託した曲だ。3月に出演した『ミュージックフェア』(フジテレビ系)でもこの曲を披露して、

「何があっても、どんなときも、前向きに生きていかなければいけない、頑張っていかなければいけないというのを、この曲から教えてもらいました」

 と、語った。生き生きと動く、動き続けることで負の出来事をも乗り越えようとする力。それが転機を目まぐるしく繰り返し、大衆を常に驚かせるような生き方につながっている。

2011年の紅白で親子共演を果たし、仲むつまじい姿を披露していた
2011年の紅白で親子共演を果たし、仲むつまじい姿を披露していた
【写真】ハワイハネムーンで人目はばからずに抱擁する松田聖子と神田正輝

 それにしても、デビュー当初のぶりっ子、ウソ泣き(?)に始まり、破局直後の結婚、不倫、ブランドショップ開店、米国進出、ビビビ婚、娘の死、そして今回の大学卒業と、彼女の驚かせ方はさまざまだ。ひとつの色で輝き続けるスターもいるが、聖子という星は複雑な多面体なのだろう。

 多様性を求められる時代でも、スターでいられる理由がそこにある。

宝泉薫(ほうせん・かおる)アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)