行動すると新しい道が開ける

「おばさんが楽しく生きられる社会になったら最高ですよね」と北原さんは軽やかに笑う(撮影/佐藤靖彦)
「おばさんが楽しく生きられる社会になったら最高ですよね」と北原さんは軽やかに笑う(撮影/佐藤靖彦)
【写真】「勉強どころじゃない」と何かと忙しかったという大学時代の北原さん

 北原は自身が責任編集を務めた書籍『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』に「フェミニズムとは、女の悔しさと祈りが生んだ思想です」「この国で女性として生きることとは、どのような体験なのか目をそらさずに言葉にしていきたいと思うのです」と強い決意を書いている。慰安婦問題にもコミットし、2019年には性暴力の根絶を求め、花を手に行う「フラワーデモ」を呼びかけ、今年で5年目だ。

「最近は社会運動にも積極的に関わるようになりました。闘うしかなかった市川房枝が生きた時代が終わったわけじゃないんだなぁと思うからです。逮捕されてからの10年は重たかったけれど、自分が何に怒っているのかを整理ができた気がします。それに社会運動をするようになって、さまざまな女性の立ち場がもっと見えるようになって、改めて会社を大切にしたいと思いましたね。

 20代のスタッフも増えていますが、女性が経済的に不安なく、仕事の誇りをもつ大切さを実感しています。私は組織というものが嫌いだったから人を縛っちゃいけないと思っていたけれど、女性の組織をしっかりつくることの大切さを意識するようになりました」

 2021年にはラフォーレ原宿に常設店を出店、八ヶ岳にも拠点を置き、出版部門「ajuma―books」を設立するなど新たな事業も始めた。行動すると新しい道が開けることに喜びを感じている、と北原は言う。

「この数年間で政治家がフェムテックとか言い始めて、28年前にラブピースクラブを始めてからずっと叩かれる対象だった自分がいつの間にかフェムテックやフェムケアの分野で老舗の人になっていて、今では健康グッズなども取り扱うようになって。でも私が仕事を始めたときと今の女性の地位がどのくらい変わってきたかっていうと、全然変わったようにも思えないですし、今は明るさが足りない時代なのかなと思ったりして。私があとどれくらい仕事ができるのかわからないですけど、女性が心から自由を感じられるようなことをしていきたいですね」

 信田は北原の実業家としての側面も尊敬しており、経済的基盤があることを頼もしく思っているという。そして北原に今後期待することを聞くと「ずっとそのままでいてください」とエールを送った。

 また妹のあかりさんは「ショップでマスターベーションを始めた男を取っ捕まえて警察に突き出したりなど、姉には危なっかしいところがあっていつも心配していたんですけど、最近は人と付き合うのが上手になってきていて、安心できるようになりました」と変化を感じているという。

「女性を取り巻く状況がこれだけ変わってきているのを見ると、姉が積み重ねてきたことってすごいと思います。でももうちょっと柔らかい感じで、上手にやってくれたらなと(笑)。これまでは北風みたいでしたけど、太陽のような感じでやってほしいですね」

 現在の社名である「アジュマ」は、韓国語で「おばさん」を意味する単語だ。

「おばさんが幸せで、未来を感じられる社会にしたいと思ってつけました。でも韓国人にこの名刺を見せると、みんな大笑いするんですけどね(笑)。私には幸せなおばあさんになりたいっていう夢があって、祖母のような威張ってるおばあさんが楽しく生きていられる世界に自分も行くんだ、みんなも行こうよ、って気持ちがあるんです」

 祖母と同じく、北原は女性たちが安心できる安全な場所をつくり、ずっと守り続けている。「はて?」と感じた疑問や理不尽に力強く、しなやかに、そして軽やかに立ち向かっていくために。

<取材・文/成田 全>

なりた・たもつ 1971年生まれ。イベント制作、雑誌編集、漫画編集などを経てフリー。幅広い分野を横断する知識をもとに、インタビューや書評を中心に執筆。ドラマ『おしん』を語る『おしんナイト』実行委員。