ひと仕事終えたときの休暇や、膨大なセリフをこもって覚えるために、30年前から軽井沢へ行くように。2012年に旧軽井沢に別荘を購入。東京との二拠点生活を開始した。
「別荘というよりも山小屋のようなところでね。夫婦2人で花を植えたり、近所の方が野菜を植えて、世話してくださったり。農園のようになっています。鳥のさえずりを聞いたり、テラスで夕暮れを眺めたりしています。野菜が新鮮で水がおいしい」
「若い人たちの邪魔をしないということも大事」
コロナ禍を機に軽井沢で過ごす時間が増えたという。東京にいるのは仕事のときや歯科医にかかるなど用事があるときくらい。
「東京は人が多くてコロナ感染を考えると危ない、ともいわれていたでしょ。だったら、軽井沢へ行っていようかなと、ずっと滞在していたんです。都会の喧噪を断って、静かに過ごしてみて感じたのは、仕事を詰め込んで追われてばかりの生活は、ちょっと違うと思うようになりました」
軽井沢での生活で何よりもうれしいのは、ご近所の方の心遣い。敏子さんは、
「軽井沢に行くと、長塚が好きなものですから近所の方がおいしいお蕎麦を作ってくださるんです。それが普通のお蕎麦屋さんでは食べられないような極上のお蕎麦なの。おつゆも手作りでね。東京でもご近所とは仲良しですけど、東京ではできないリフレッシュになります」
と話す。軽井沢では9歳のトイプードルのココちゃんも一緒に、近所付き合いをしながら暮らしている。
エリート役が多かった若かりしころを経て理想の上司役を演じ、78歳の現在でも、ダンディーな熟年男性を演じられる貴重な存在と、引く手あまたの長塚さん。
人生100年を生涯現役で過ごせるうらやましい仕事ではあるが、
「それでも撮影途中で具合が悪くなってしまったりしたら、周りに迷惑をかけてしまうでしょう?」
と健康に気遣う。そのために心がけていることとは?
「何事もまめにすることですね。健康にいいというけど、万歩計をつけて1日1時間歩く、腹筋を100回するなんて、趣味ならいいけど義務にしたら精神的にこたえます。
それよりも、思いついたらこまめに身体を動かす。そのほうが判断力とか行動力がついて、結果的に健康長寿にいちばんつながるんじゃないかと思います。できる範囲で買い物に行く、ゴミを捨てる。生きることって、そうした小さな行動から成り立っているから」
睡眠時間をしっかり取ることや、朝起きて簡単なストレッチをすることも習慣化しているという。さらに、健康的な食事について夫人が明かす。
「好き嫌いがありませんし、ちょこちょこしたものが好きな人です。だからいつも、食事は小皿に少しの量を品数たくさん。そんなふうに食べてもらっています」
妻のサポートに、長塚さんも感謝の念を隠さない。
「ぜいたくなことですよね、奥さんがそれだけ大変になるわけだから。でもそれだけのことはありますよ。満腹感より充足感がありますから」
さまざまな栄養をいろんな食材からとれる少量多品種は定評ある健康法。特別なことをするのではなく、静かに読書や映画鑑賞をしながら毎日を丁寧に暮らす。
ちなみに、長塚さんが見る映画や本はジャンルを問わず古いものが多いそう。仕事半分、楽しみ半分で見ている。生涯を捧げた映画やドラマ、あるいは俳優としてのあり方には独特の見解がある。
「謙遜じゃなく、俳優としては“いさせてもらう”というか、若い人たちにお付き合いしてもらうというスタンスです。映画もドラマも演劇も、基本、若い人のものだから。製作側も自分より若い人たちが作って、若い人が見る。年配者が偉そうなことを言うのはお門違い。若い人たちの邪魔をしないということも大事だと思うんです。
一方で、若かった僕が、当時はどうも鬱陶しかった諸先輩も、亡くなってしまった今では鬱陶しいとは思わない。君たちも僕らの存在を同じ時代に居合わせた者同士として受け入れてくれたら、といった感じでしょうか」
長塚さんのダンディーさは、肩に力を入れることなく一歩引いて時代と寄り添う、そんな姿勢にある─。
取材・文/千羽ひとみ
ながつか・きょうぞう 1945年東京都生まれ。早稲田大学文学部演劇科中退。フランス留学中、映画『パリの中国人』で俳優デビュー。主な出演作に、ドラマ『金曜日の妻たちへII・III』『ナースのお仕事』シリーズ、『篤姫』、『眩~北斎の娘~』、映画『ザ・中学教師』『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』など。5月公開の映画『お終活 再春!人生ラプソディ』に出演。