17歳で脱会するが母は輸血拒否で亡くなる

ライブのため、全国各地を訪れている。東京の「阿佐ヶ谷ハーネス」では月1回程度、定期的に行っている
ライブのため、全国各地を訪れている。東京の「阿佐ヶ谷ハーネス」では月1回程度、定期的に行っている
【写真】大ヒット曲『Romanticが止まらない』の頃のC-C-Bメンバーと

 中学卒業後、母親は「悪い交わりが増えるから」と高校進学は許さず、関口は清掃のアルバイトをしながら布教活動を続けていた。

「でももっと勉強したかったし、女の子とも付き合いたかったので、『もう教会へは行かない』と宣言して、1年遅れで高校に入学しました。もちろん母からも団体の人からも脱会しないよう説得されましたが、タバコを吸っているのが見つかって、排斥処分になったんです。排斥処分になると信者の人は口もきいてくれません。母も面倒をみてくれないので、高校生のときからバイトをしながら一人暮らしをしていたんです」

 その後、母親にがんが見つかるが、治療に際し教義が立ちはだかる。

「エホバの証人では輸血が禁止されています。でも医師からは『輸血して手術すれば延命できる』と言われ、母を説得したのですが無理でした。病院には教会の長老や信者がたくさん来ていて、排斥された僕が母とゆっくり話すことも許されません。母の治療方針について医者と話していたのが長老で、家族でも入る隙がなかったんです」

 母親は2年間の闘病後、54歳で亡くなった。関口は20歳だったが、葬儀にも参加できなかったという。

「葬儀は教会で行われたのですが、僕は排斥されているため呼んでもらえませんでした。親族だけで火葬場に行き、納骨はできましたが、どうして命を削ってまで信仰を続けたのだろうかと、そのときのやるせない気持ちはずっと引きずってきました」

 一方で、大好きだった母親を恨むようなことはできない。

「死を恐れずに信仰を貫いたのですから、それは立派な一面でもあると思うのです。でも判断がつかない子どもにまで信仰を強要するのは問題だと思います。僕の妹は今もエホバの証人の信者ですが、排斥された僕とはいまだに絶縁状態になっていますから」

宗教2世として悩みを持つ人に寄り添う

 母親の信仰については家族の問題であり、社会的な問題であると考えたことはなかったという関口。しかし2022年の安倍晋三元首相銃撃事件の背景を知って驚いた。犯人の山上徹也被告が自分と同じような経験をしていたからだ。

 山上被告は父親が自殺しており、その後、母親が統一教会にのめり込む。1億円以上を献金し、一家が経済的に困窮したため大学に進学することができなかった。難病の兄は十分な治療を受けることができず自殺。家族をバラバラにした統一教会への恨みを募らせた山上被告は、安倍元首相が教団とつながりがあると考え凶行に走った。

「僕の母も家を売って教会に献金し、最低限のお金で生活をしていたので、教団は違えど同じような経験をしている人がいることに心を痛めました。SNSで宗教2世の苦しみを明かす人も増えてきました。そのため僕もXで『宗教2世でした』とつぶやいたところ、有名人ということで反響が大きく、取材される機会も増えたんです。Xで同じような悩みを持つ人たちと交流するようにもなりました」

 ただし、信者を脱会させたり、教団を訴えるような活動をするつもりはなく、悩んでいる人に寄り添う形をとっている。

「信じている人に何を言っても仕方がないですし、その人は幸せなのでしょうから、信仰している人を否定するつもりはありません。ただ、家族の信仰でつらい思いをしている人や、やめたいけれど、やめさせてもらえずに困っている人、やめたら家族も友達も離れてしまってつらいという人などに対しては、自分の経験から何か言ってあげられることがあるのではないかと思っています。経験者にしかわからない苦しい気持ちを共有できると思うので、僕に利用価値があるんだったら利用していただきたいですね」

 エホバの証人を脱会してから48年、C-C-Bを脱退してから37年がたつが、今、関口は2つの使命感で生かされていると感じている。

「ひとつはC-C-Bの残ったメンバーとして音楽を続けていくこと。もうひとつは宗教2世として、脱会者として、悩んでいる人に寄り添うことです。何度も死にそうな病気になったのに生きているのは、自分にはそういう責任があるからだと思います。僕はXでフォローしてくれた人には必ずフォローを返すようにしています。それは、僕からのフォローで、前に進む勇気を持ってもらえればと思っているからです」

 波瀾万丈の人生から自分の使命へとたどり着き、歌を届けながら必死に生きる関口の姿を、亡くなった朋友たちも見守ってくれているはずだ。

<取材・文/垣内 栄>

かきうち・さかえ IT企業、編集プロダクション、出版社勤務を経て、 '02年よりフリーライター・編集者として活動。女性誌、経済誌、企業誌、書籍、WEBと幅広い媒体で、企画・編集・取材・執筆を担当している。