確執の火種になりかねない音羽屋の襲名問題。なぜ今になって動き出したのか。
「本来、菊之助さんの襲名は'20年5月に予定していた市川團十郎さんの襲名以降に行う予定でした。しかしコロナ禍で團十郎襲名は'22年10月に延期。歌舞伎の世界で最も格式の高い『團十郎』を差し置いて、『菊五郎』を襲名するわけにもいかず、菊之助さんはタイミングを失っていたんです。また、近年の七代目菊五郎さんは健康状態が芳しくなく、立って演技することが難しい状態。松竹としても“七代目菊五郎さんが舞台に立てるうちに襲名披露を実現したい”という思惑があり、W襲名発表を決意したのでしょう」
“母子歌舞伎”の夢
W襲名の発表は、現在歌舞伎座で行われている『團菊祭五月大歌舞伎』の閉幕直後を候補に挙げているという。
「團菊祭は明治時代に活躍した九代目團十郎と五代目菊五郎の功績を顕彰する、音羽屋にとって思い入れの深い舞台。おそらく1年後の'25年5月の團菊祭でW襲名公演を行うと思われます」
この計画について松竹に問い合わせてみると、
「本件に関しましては、現時点でご回答できることはございません」
とのことだった。いよいよ寺島の悲願が潰えてしまうようにも見えるが、一方でこんな声も聞こえてくる。
「由緒正しい名跡を継いでしまうと、伝統に縛られて自由な活動が難しくなるという側面もあります。眞秀くんは日仏にルーツを持つ新しい時代の歌舞伎の体現者ですから、歴史ある名跡は継がないほうが大成するのではないでしょうか」
愛息を菊之助に襲名させられず消沈しているであろう寺島もまだ野望を抱いているという。
「'23年に中村獅童さんとの共演で歌舞伎座の舞台にメインキャストとして出演して、女人禁制という慣習を打ち破り、新たな前例をつくりました。寺島さんは今後も歌舞伎を続けて、成長した眞秀くんと共演する“母子歌舞伎”を行いたいと考えているんです。歌舞伎は伝統芸能であると同時に、話題や人気が問われる興行でもありますからね。名跡の大きさだけで役者の価値は測れません」
歌舞伎界に新風を起こす姉と、伝統を受け継ぐ弟。ふたりの勝負はまだまだ続く。