振り返った「崖っぷち」
ひとつは音楽の女神、もうひとつはスキャンダルの悪魔とでも呼ぼうか。前者だけでもヒット曲は作れるが、何年も続くようなブームを生むには後者も必要。美空ひばりさんも松田聖子も、海の向こうのマイケル・ジャクソンさんなども、そうやって大スターになった。
スキャンダルは音楽に、独特の色気を添える。恋愛関係であることをあえてネタにして華原朋美をブレイクさせた小室は、そのあたりを意識的にやってみせたわけだ。
そんな彼も、最近は子ども番組で音楽を作ったりしている。一昨年『天才てれびくん』(NHK Eテレ)の音楽コーナーで、5人の子どもたちとともに『Be The World』を制作。もっとも、子どもたちは小室の登場より、振り付けを担当した女性の登場に興奮していた。King & PrinceやBTSなどを手がけ、ダンサーでもあるRIEHATAだ。
そのRIEHATAは先日、時の人になってしまった。出演予定だったビールのCMが、未成年飲酒にまつわる過去バレにより、放送見送りに。今回は小室本人の件ではないものの、スキャンダルを呼ぶ異能(?)はまだまだ健在のようだ。
とはいえ『徹子の部屋』での枯れた姿からは、長年の金属疲労めいたものも垣間見えた。ちなみに、TMという言葉は3人が東京の多摩地区出身であることと、タイムマシンを掛けたもの。もしタイムマシンが存在したら、小室が戻りたいのはどの時期だろう。
もちろん、逮捕前後の地獄ではないとして、小室ブームで栄華を極めた天国だとも思えない。そういえば『徹子の部屋』でなかなかヒット曲が出なかったTM初期について彼は笑いながらこう振り返っていた。
「崖っぷちのときですね。あとがないよ、って意外と言われてましたから」
案外、売れることを夢見てもがいていた、その時期なのかもしれない。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。