伊藤沙莉、東出昌大、森山未來との撮影秘話
同小説の登場人物はみな、実在するモデルがいる。それゆえ、俳優たちは燃え殻さんを質問攻めにした。
「ヒロイン・かおり役の伊藤沙莉さんには“彼女の口癖はなんでしたか?”“鼻歌は何を歌ってました?”とか。
あと、全然知らない番号から電話がきて出たら、まだ会ったことがない東出昌大くんで。“(同僚役の)関口ってどんなやつだったんですか? 口調ってこんな感じですか?”と聞かれたりして」
燃え殻さんがモデルである主役を演じた森山未來の役作りにも驚かされた。
「最初の顔合わせで食事に行ったとき、途中から森山さんの箸を持つ手が左に変わったんです。……僕、左利きなんですけど、それを見てすっと、いつの間にか。すごいなあと思いましたね」
プロフェッショナルな俳優たちの仕事ぶりに感化されながら、会社員と作家の二足の草鞋で数年活動を続けた。
決定的じゃない食事と決定的じゃない人たち
現在は専業作家となり、連載4本に小説やコラム、ドラマ脚本、ラジオのレギュラー番組など活躍の幅を広げている。そんな多忙を極める今、週刊女性の連載を引き受けた理由をこう話す。
「僕が好きな作家・中島らもさんが月に17本連載を持っていたのを思い出して。月に4本の連載って少ないな……と思い始めたころに、いくつか新しい連載の依頼をいただいて。その中で“食を切り口に連想する人や思い出”という企画がしっくりきたんです」
どのようにしっくりきたんでしょうか?
「僕、普段からロクなもの食ってないんですよ。だから、美食エッセイみたいなものは書けない。でも、編集の方に“書いてほしいのは人間で、食は真ん中になくていい”と言われて。
もともと、匂いだとか、映画や音楽をきっかけに過去のある思い出にフラッシュバックしていくエッセイを書くことが、たぶん好きなんですよね。それと同じで、意識的に“食”をトリガーにして、人との思い出とか今考えていることを引きずり出すのは初めてだし、面白そうだなぁと。何となく、自分のスタイルに合ってる気がしたんです」
実際に数本のエッセイを書いてみるうちに、より書きたいことが明確になったという。
「お酒や食べ物を介在して思い出すことって、実は多いなあと。何かを食ったとき、何かの酒を飲んだときに思い出すぐらいの間柄の人って、いっぱいいるじゃないですか。
強烈に覚えてる、とかじゃなくて。でも、そういう人たちが人生のほとんどなんじゃないか、と実は思ってて。
決定的じゃない食事と、決定的じゃない人たちを書きたいのかもしれない」
早朝の牛丼屋で出会った同士のこと。ジャンボモナカをかじりながら友人が打ち明けた限界。自称・中華街マスターを名乗る先輩の幸福論。風俗嬢のお弁当に翻弄される後輩。嫌いなのに憎めない焼き肉店勤めの肉食男子。周囲には内緒にしていた関係の女性と最後に食べたシーフードドリア──。
とある料理やお酒をキーワードに人間ドラマを描く新連載エッセイ『シーフードドリアを食べ終わるころには』が次号より、スタートする。