個人的にはスピーディーな対応で謝罪も公開停止もしているのだから、これ以上、何かを責めたり嘲笑してみたりする必要はないだろうと私は思う。

 むしろ、個人を責めるよりも、「なぜ炎上してしまったのか」「なぜ燃える可能性のある動画が、多くの人が関与していながら公開されてしまったのか」を考え、われわれ自身の学びにすることが大事だと思う。

リスクマネジメントの難易度は格段に上がっている

 ところで話が変わるようだが、以前、某企業から聞いた話がある。

 企業には調達部門(仕入れ部門)と営業部門がある。その企業の調達部門が経済安全保障の観点から、A国製の部品や材料をできるだけ排するよう、仕入れ先にお願いした。すると、その某企業の営業部門はA国での活動に支障が出たという。具体的には、政府調達などで採用されなくなったのだ。調達部門の発言によって、同社の営業部門が影響を受けた……それまでなら、考えもしなかった事態だ。

 つまり何を言いたいかというと、リスクマネジメントとは、もはや想像力と同義になっているのだ。

 私は、「商売人=ビジネスパーソンは、歴史観と政治観とプロ野球の話はしないほうがいい」と考えている。いや、もちろん個人の自由だが、相応のリスクがあることは理解するべきだろう。

 なお、歴史・文化的な炎上が発生する要因として、「そもそも炎上する内容だと知らなかった」か「違和感はあったけれども組織員が言い出せなかった」の2つがある。それぞれ、組織としてどのように向き合い、対応していくべきか。

(1)「そもそも炎上する内容だと知らなかった」を防ぐには?

 地味ではあるものの、組織を構成する人たちが歴史や文化的な背景を学習できる機会を作るしかない。そして潜在的に問題を引き起こす可能性のあるコンテンツについて知る必要があるだろう。

 もちろんコンテンツ作成の過程において、アドバイザーを入れることも有効だ。現に外部と連携してビジネスのハレーション(悪影響)を引き起こさないか確認する例がある。また、企業の場合、一般公開の前にクローズドなメンバーに公開し、そこから問題になりうる内容が含まれているかフィードバックをもらうこともできる。

 また、これは個人的な経験だが、企業の現場でスピーチ原稿や発表資料を事前にいただき、生成AIに与えた。発言内容にリスクがないかしつこく質問すると、かなりの精度で答えてくれる。レピュテーション(評判)を下げるリスクがないかを生成AIからもチェックしてもらうのだ。

 ChatGPTのような相手に「あなたが〇〇の立場で、この発表を聞いたときに、差別的だと感じる可能性はありますか」などと訊く。もちろん完璧ではない。ただ、リスクマネジメントとは、もはや想像力だと述べた。想像力にも限界がある。その際には学習豊かな生成AIを活用する。