車いすの娘を蹴り、障害年金を奪う毒父

 依頼の中には、車いすの娘から障害年金をむしり取って暮らす無職の父親から逃げたいという、毒親案件もある。

 先天性の病気で生まれつき両足が不自由なB美さん(20代、女性)は母親を不慮の事故で亡くしてしまい、直後、失踪したはずの父親がB美さんの元に戻ってきて、金の無心をするように。一人暮らしをしたいと父親に言うが、怒った父親は車いすを倒して彼女を転げ落とした。

「僕は、障害者の方の夜逃げがこの時初めてだったんですが、年金受取口座を止めて、加害者にこれ以上お金を使わせないように手配するなど、社長の段取りがすごく良くて、すんなり話を進めていく。

 なぜそんなに慣れているのか聞くと、障害年金を家族に握られて、自分の治療にお金を回せないので家族から逃げたいって依頼を何度か受けたことがあると聞き、驚きました。

 このB美さんの場合は、警察に相談しても『障害者なら家族と仲良くしたほうがいい』と取り合ってくれないため、うちに依頼したそうです」

依頼者は精神的に追い詰められている場合がほとんどで、室内は荒れていることが多いという(画像提供、宮野さん)
依頼者は精神的に追い詰められている場合がほとんどで、室内は荒れていることが多いという(画像提供、宮野さん)
【写真】精神的に追い詰められている依頼人の部屋の様子

 突然帰宅した父親から逃がすため、歩けない彼女を横抱きにして、宮野さんは集合住宅の階段を駆け下りた。

「実は最初、おんぶしようと背中を向けたんです。そうしたら、『足が悪いからおんぶは無理』と言われて。横抱きにして必死に父親から逃げた経験は壮絶で、印象に残っています」

 依頼者たちは多くの事情を抱え、夜逃げという選択肢を選ぶが、本当に大変なのはその後の生活だ。

翌日からはまったく知らない土地で、ゼロから自力で新しい人生を歩まないといけない。ましてや子連れとなると、そのプレッシャーはとてつもないです。

 夜逃げ後もなかなか心の傷が癒えない人もいて、そんな時にはカウンセラーが本業のスタッフが対応したりもします。僕にはその先輩スタッフのように、心のケアをすることはできませんが、これからも漫画を通じて、現場のリアルな声を届けていきたいです」

『夜逃げ屋日記2』(KADOKAWA)著者=宮野シンイチ ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
話を聞いたのは……宮野シンイチさん●漫画家。「夜逃げ屋」での体験をX(旧Twitter)で配信し、注目を集め書籍化。今年2月に「夜逃げ屋」シリーズ2冊目となる、『夜逃げ屋日記2』(KADOKAWA)が刊行された。

取材・文/ガンガーラ田津美